ああ、頭が痛い、ズキズキする、体もだるい、動くのも億劫だ。

煙草をいくら吸ってもコーヒーを何杯飲んでも一向にそれらがすっきりする気配はなく、気休めとばかりにいつも以上に溜め息が吐き出される始末。それでも私はいつもの様に朝起きて会社に行き、仕事をこなさらなければならない。例えそれが、どんなにつまらなくてありきたりな日常だったとしても。


梅雨明けももうすぐというこの時期、白や薄い色の服に身を包んだ人が段々と増えてきた。梅雨寒という事もこの時期になるとそうそうないので、半袖のみで会社に来る人も少なくない。そんな中うちの部署の皆も例外ではなく大概は夏仕様の服。


「お前なんか顔色悪ぃぞ」
「え?あ、そう?」


水色のストライプシャツに身を包んだ土方もその一人。その土方に朝方からの具合の悪さを顔色によって知られてしまったらしい。こいつになら正直に言ってしまおうと思ったが、言ったところで具合が良くなるわけでもなく、この仕事の量もあのハゲ課長が減らしてくれるわけでもない。休んでなんかいられないし、甘えた事も言ってられない。今私はまさにそんな状況にいる。

いつもの年と変わらないと言えばそうなのだ。夏休みを取る人がいる為、普段以上に人手が不足しているのは。しかし変わらないどころか増える一方の仕事の量が、私のこの具合の悪さを何段階にも押し上げてる様な感じがした。土方からすれば私が強がっているのが十分分かっているのだろう。「あまり無理すんなよ」とだけ言って私にはそれ以上聞いて来なかった。さすがというか、私の事を本当によく分かってる奴だと思う。

そんな会話をした直後の事。近藤さんが少し険しい表情で私達の元へとやって来た。恐らく土方に用事でもあるのだろうと思っていたらどうやらそうではないらしい。土方に目くばせをした後、ちょっといいか、と私を呼んだ。何事かと思い土方と一緒に近藤さんの後を付いて行き、同じ階の会議室へと三人で入る。そこは私達以外誰もいない会議室でいつもはさして気にも留めないエアコンの音がやけに大きく聞こえた。近藤さんは側にある椅子に座るよう私に促し自分も椅子に腰かけると、私の目を真っ直ぐ捉えたまま今度はにこやかに笑い、言った。


「要さん、頼みたい事があるんだが…」
「どうしました?改まってお願いなんか」
「正式にプロジェクトのメンバーに加わってもらいたいんだ」


どうだろう?と全く嫌みのない笑顔を私に向ける。この笑顔は坂本さんの笑顔に似ている。計算でも何でもない、いつもの近藤さんの笑顔。その笑顔に魅せられたわけではないが、正直その申し出への返答をするのに少し時間がかかってしまった。何故なら信じられない思いで一杯だったから。プロジェクトとは坂本さんの所との例のやつの事だが、課長が私をそんなプロジェクトのメンバーになる事を了承したのが、私にとっては考えられない事だったのだ。それを察したのか土方が了解は取ってあるから心配すんなと口を挟んできた。


あの課長が…

多分近藤さんが説得してくれたんだ…


で、どうする?と相変わらずの近藤さんの笑顔に魅入られつつ、ここまでしてくれる彼等の足を引っ張りはしないだろうかと急に尻込みをしている自分もいた。しかもこれは私にとってもビックチャンスを意味している。仕事の上でも、キャリアの上でも。もし足を引っ張る様な事をしたら私は絶対自分を恐ろしい程に責めたてるに違いない。しかし、この日常から脱却する為の切符が用意されてるのを断る理由もない。私は具合の悪さも忘れ近藤さん以上の笑顔で、二つ返事でその切符を受け取った。飾りのついてない全くの裸の笑顔で。

オフィスに戻ると課長が少しオロオロしている様にも感じたが、私の知った事ではない。本当なら私がやらなくてもいいような仕事まで回されていたのだ。これで少しは課長との接点も減る、そう考えれば課長のその様子がひどく滑稽に見えた。そんな課長に少しだけ同情的な憐みの笑みを浮かべ、早速土方から自分に任された仕事内容を聞く。と…、


「俺の方がうまい具合に教えてあげられんのに」
「ははっ…そうかもね」


沖田総悟が私達の話に割り込んできた。先輩である土方に相変わらず敵意むき出しで突っ込んでくるその態度が前からずっと可笑しくてしょうがない。しかし土方からしたら随分と迷惑な話だろう。沖田総悟が来たら少し面倒な事になると私に言っていたのは、恐らくこういう事に違いない。容赦なく突っかかってくるその子供にも似た態度が。

それと同時に沖田総悟のこの歓迎ぶりを受けて随分と楽しい事になりそうだ、と形に残る大きい仕事に携わる事が出来る嬉しさと相まって、ここでも私は自然に笑う事が出来たのだった。


[*前] | [次#]

/6

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -