鍋を火にかけて何分経ったろうか。
部屋に静かにタバコの煙が漂い消える。
彼の口から吸って吐き出される『それ』を俺はただひたすら、理由もなく眺めていた。


「……おい」


しばらく沈黙が続いた後に彼は口を開いた。


「臨也…お前何でさっきから黙ってんだ気持ち悪い、」

「それ、何気に酷い事言ってるよね。俺悲しくなっちゃう」


冗談混じりにシズちゃんの視線をたどり、嗚呼と一つため息をつく。


「シズちゃん、お腹空いたんだ?」

「……」


彼は何も答えなかったが、そんな思考はバレバレである。
もう俺達が付き合ってから何日経ったのか分かってないのだろうか?
俺はため息をまたついた。
目の前では鍋がグツグツと煮立って来ている所である。
ふ、と自分の左薬指にはめてある銀のリングを眺める。
少し手をひらめかせればそれはきらきらと台所の明かりを反射させる。


「…臨也」


気が付けばシズちゃんは俺の真後ろまで来ていた。
リビングから台所なんて隣接しているからいつの間にか来ているのは当たり前なのだけれど。


「いきなり近いのは…ドキドキするからやめてって言わなかったっけ…」


真後ろで息がかかるくらいの距離で彼の声が俺の耳に名前なんて囁くから、顔が熱くなる。


「…暇」

「…俺は暇なシズちゃんに構う程暇じゃない」


後ろから抱きしめられるが、何とか平常心を保とうと必死に憎まれ口を叩く。


「良いよ、構ってくれなくてもよ」


でも、とシズちゃんが続けると同時に俺は服の中に入ってくる彼の手に体を固めた。


「俺はお前を構う」

「っん……」


無理矢理顔を後ろに向かされたと思う暇もなく、乱暴な口付けをされる。
思えば俺とシズちゃんが婚約してからはこんなキスをシズちゃんがしてきた事は無かったっけ。
じゃあ今日はどうしたのだというのだ。


「ん…し、ず…」


彼の舌が俺の口内を犯していく。
それだけで俺の中の熱は膨れ上がっていく。


「…、ん、あ」

「…っ悪い、臨也」


ようやく口が解放されたと思ったのもつかの間。
次の彼の一言で俺は全てを理解した。


「…俺、一ヶ月が限界。今死にそうだからヤらせてくれ」


…キミの性欲は待てをされてただけなんだね。
そう呟いてから俺は気付いた。
久しぶりに彼に欲情篭ったキスをされて、何かが満たされていく事を。
俺はそんな自分を小さく笑った。


「良いよ、…俺も結構限界だったかも」


そうシズちゃんに言って、彼を抱きしめる。
何も言わなくてもシズちゃんも俺を抱きしめる。
二人の体温はゆっくりゆっくりお互いの体温と蕩けあって、二人の香りもきっと混ざり合う。
そうしたら俺はキミのタバコの香りを纏うのだろうか。
ずっと一緒に、そうしたら俺とキミは同じ香りになれるかな。
そんな他愛もない事を考えながら、首筋から更に下へとやって来る彼をまた、優しく抱きしめた。





指先すら灰になるように



(ていうか一ヶ月って…)
(嗚呼、明日で婚約一ヶ月なのか)
(…どうやってお祝いしよっか?)
(ね、俺の愛しい愛しい旦那さん)








Title by ポケットに拳銃

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