『つっきー、』


嗚呼また君の声。


『つっきー、大好きだよ』

『つっきー、愛してる』


マスターの声にそっくりだけど、マスターよりも優しいその声が響く。


「六臂…六臂!」


俺は声を枯らす程に彼の名前を叫ぶ。


「っ…六臂!」


今俺がいるこの真っ暗で無機質なデータの何処かに君が居る筈なんだ、必ず…。


『俺、つっきー信じてる…から、さ』

「六臂、今何処ですか…!」


先程よりも幾分か弱くなった六臂の声に俺は焦りを感じていた。


『だから……早く、此処にきて、…つっきー』


それを聞くが早いか俺の足は駆け出した。
何万にも及ぶ情報データの中を走る。
胸の苦しさ、息がしにくい苦しさ、足の重み、その全てを感じつつも走る。


「六臂…六臂……六臂…っ!!」


俺の愛しいただ一人の彼の為だけに。
ただひたすらに走った。




幾らの時間が経っただろうか。
俺はやっと彼の元へと来れた。


「……あ、つっ、きー…」


俺を見て六臂は安堵の笑みを浮かべ俺を手招きした。
そして六臂は自分の足を指差す。


「俺とした事がちょっと…しくっちゃってさ…ウイルスに足壊されちゃって」


見ると六臂の足首からチリチリとデータが無くなっている。


「…」

「…つっきー?」

「……すみません、六臂」


俺は六臂の足首を見て心がちくりと痛んだ。


「ん?何で謝ってるのさ…?」

「俺がもっとしっかりしてれば、ウイルスの侵入なんて無かったのに…」


そう。俺はセキュリティソフトだ。
マスターのパソコンは人間の情報が詰まっている。
そんな情報たっぷりのパソコンだ、悪い輩がそれを何とか手に入れようとクラッキングやウイルスでマスターのパソコンを攻撃してくる。
俺の役目はそのような攻撃からマスターのパソコンのデータを守ること。
だが俺はまだ作られて間も無い。
度々性能面に問題が起きる。
今回もそうだ。
俺が小さなミスを起こしてしまったせいで、データベースへのウイルス侵入を許してしまったのだ。


「……」


六臂は、ウイルスバスターソフトである。
つまり言い方が悪いが俺がミスを侵してしまった時の尻拭い役。今回のウイルス侵入も六臂が片付けてくれた。
ただ、六臂は無傷ではない。
足首だけでなく、体の至る所に傷を見付けた。
こんな事になってしまったのは俺のせいだ。
ウイルス侵入を許してしまった出来損ないの俺のせいなんだ…!
俺らの体はサイケさん達とは違いまだデータだけで作られているから、失った体のパーツは直せる。
だが、データといえど、傷を受けた時の痛みは確実にあるのだ。
俺は六臂に傷を付けてしまった。
彼が簡単には歩けなくなるくらい程の傷を。


「…すみません、六臂!」

「つ、つっきー、俺の話を…」

「俺が…俺が悪いんです…!」


鼻の奥がつん、となり涙が両目から溢れ出て来た。
嗚呼情けない。好きな人の前で女々しく泣くだなんて…。
そんな馬鹿な俺の姿を見て、六臂は戸惑っていた。


「ちょっと、つっきー!?な、何で泣いちゃうの…」

「ずびばべんん!!っぐす、っ…ず」

「ああああとりあえず涙を拭いてあげるからしゃがんでつっきー!」


六臂はこんな情けない姿の俺を見ても尚、優しくしてくれる。
何て素敵な人なんだろう。そう思い、細く長い指で涙を拭われながら六臂を見つめると、六臂は眉を下げて笑った。


「つっきー、とりあえず臨也の所に連れて行ってくれないかな?データ復元しないと…」

「ああっ!すみません、俺とした事が…!!」


また謝る俺の首に六臂は両腕を回し抱き着いた。
ふわり、と甘い香が鼻をくすぐる。
耳元ではくすくす、と六臂の笑い声が聞こえる。


「つっきー、謝るのも良いんだけど、それは怒ってないから謝る事はしなくていいんだよ?」


「六臂を傷つけたから謝ってるんです!」と俺が返すと彼は暫しきょとんとしてからまた笑った。


「つっきー、そんな顔しないでよ」


そう言って俺の頬を包む。


「笑って?」


そうふわりと笑って言われたら自然に俺も笑みが浮かんで。


「…!」


そんな俺の顔を見て六臂は何故か顔を赤らめた。


「と…とりあえず臨也に報告しに行くのと復元頼まなきゃね…よっ、と…」


六臂が顔を赤くしたままよろけながら立ち上がる。


「…六臂、」


俺はそんな六臂を見てひどく心が痛んだので彼の腕を引き寄せる。


「…っわ!?」

「足、ひどい怪我ですし、他も傷があります。ここは俺に任せて下さい」


そう言って俺は六臂を所謂お姫様抱っこ状態で持ち上げた。


「っ、つつつ、つっきー!?大丈夫だよ俺歩けるから降ろしていいよ!?」


六臂が俺に向かって必死に叫ぶ。何故か先程よりも顔が赤い。


「お詫びのつもりならもう良いから、大丈夫だから!」


あわわと効果音のつきそうな動きで六臂が俺を説得する。
…ちょっと、いやかなり可愛いと感じた。
更に俺は顔が熱くなるのを感じていた。


「いえこれはお詫びではなくて、俺がやりたいからやるんです」

「……〜馬鹿っ…」


顔の熱さを紛らわす為に笑ってそう言えば六臂は俺に寄り掛かり抱き着く。


「…じゃあお願いしちゃおうかな」


小さく呟かれたそれに俺が六臂を見つめると六臂も俺を見つめ、天使のように笑った。





その微笑みに満たされて

((いつになれば君は))
((自分の笑顔の破壊力を理解するのだろうか))





初つきろぴ……!((感動
企画、「君の隣で息をする」様へ提出です!
私的二人の設定は
六臂…ウイルスバスターソフト。月島の恋人。無自覚天使。照れ屋さん。気配り上手。
月島…セキュリティソフト。六臂の恋人。無自覚イケメン。泣き虫。人見知り。
…簡単にこんな感じです(笑)
何か両方とも受けくさくなりましたが月島が攻めで六臂が受けですから!((
お互いがお互いを好きで
この二人はピュアだといいなあと思いました(笑)
目があうだけでも嬉しい、みたいな←


タイトルは『空想アリア』様より




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