俺は人間が好きだ。
愛してる。
でもしかし。
「やあ正臣君。元気だったかい?」
「ああ、臨也さんじゃないっすか。死んで下さい」
「え、ちょっ…」
「やあ帝人君、奇遇だねえ」
「昨日も会いましたよね臨也さん。何ですかそんなに構って欲しいんですか?」
「え、何その目は…」
どの人間からも俺は愛されていると実感出来ない。
何故だろうか。
人間が俺に向ける言葉には好意が全く含まれていない気がする。
「愛…かあ」
臨也は公園のベンチに腰かけため息混じりに独り言を吐き出した。
「俺は人間を愛してるのに何で人間は俺を愛してくれないんだろうね?」
いや、その言葉は独り言ではなかった。
「っせえな、んな事俺に聞くな」
臨也の隣で不機嫌そうにタバコを吸う静雄に向けられた言葉であった。
「あ、俺シズちゃんは化け物だと思ってるからね。ここ重要」
「手前まじ殺す」
いつもと変わらぬ会話だが、二人の間に流れる空気は今までと比べて中々に緩やかな空気であった。
静雄は臨也が隣に居てもキレて自販機を持ち上げにかからない。
臨也は臨也で憎まれ口は叩くものの、本気で静雄を乏そうとはしていないような口ぶりである。
まあ何故だと問われれば、それは二人が恋人という関係にあるからだという簡単な物なのだが。
「愛されない、ってさ」
「…」
「結構寂しいんだよね」
ぼそりとそんな弱音を吐いては臨也は静雄の肩に寄り掛かり目を閉じた。
「…ん」
静雄は何もいわずに只々自分に寄り掛かる臨也の頭を撫でた。
「何、シズちゃん。俺に同情しちゃった?」
臨也が笑いを含み冗談まじりに聞けば、静雄は表情をあまり変えずに言った。
「人間から愛されたいのか?」
質問したのは俺なんだけど、という言葉を飲み込み臨也は答える。
「そうだねえ…できる事なら愛を感じてみたいよね」
今の俺には無理か、と笑えば静雄が不意に臨也の頭を撫でる手を止めた。
何かと思い、臨也が顔をそちらに向ければ、
「っ!」
唇と唇が触れ合った。
その瞬間を「待ってました」と言わんばかりに静雄は臨也の後頭部を手でホールドした。
「…っは、」
酸欠故に臨也が唇を薄ら開けると、その隙間から静雄が舌を入れ臨也の口内を蹂躙し始める。
「ん、ぁ…」
しばらくして臨也にがっつくようにキスしていた静雄の唇がようやく臨也から離れる。
臨也は未だに眩暈がする身体を何とか自分で支え、静雄を睨みつける。
「いきなり…何すんだ馬鹿…万年発情期な訳?」
「…まあ臨也に対してはいつもムラムラしてるけど」
先程までのしつこいキスなど嘘のように静雄は涼しい顔で爆弾発言をした。
「っズちゃんの変態!万年発情期のど変態!」
「っせえな…」
「最悪!いきなりキスとかすんな!今は周りに誰も居なかったから良かったけど誰か居たらどうなってた事か……!!」
「そん時はそん時だろ」
尚も涼しい顔で返答する静雄に臨也は更なる眩暈を覚え、相手に寄り掛かった。
「つーかよ、今のキスは…あれだ、あれ」
「……何さ」
静雄が臨也の頭を撫でながら少し笑った。
「俺からの、愛って奴だな」
「っなななな……!」
確かに俺は『愛を感じたい』と言ったが『キスして欲しい』等と言っていないし、第一シズちゃんは人間じゃなくて化け物だから!!
と臨也が言おうとした前に、また静雄の唇で唇を塞がれた。
(もう……)
臨也は口内に感じる快感を覚えつつ、内心小さなため息をつく。
(シズちゃんて本当横暴……)
そんな事を考える臨也だが、頭ではきちんと分かっていた。
(結局はシズちゃんが俺を一番愛してくれてて)
(俺もシズちゃんを一番に愛してるんだろうね)
(……こんな怪物みたいな奴だけど)
臨也はゆっくりと未だに唇を離さない怪物の背中に腕を回す。
(惚れた人、なんだから)
愛を知るのは簡単なことでした
(唇から伝わって来る)
(君からの甘い愛)
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