「いーざーやー機嫌直しなよー」

「絶ッ対嫌だ!新羅は死ね!!」

「なっ、」


学校の屋上で隅っこに小さく体育座りをした臨也は新羅の呼びかけに「死ね」と返した。
何故臨也がこんなにもへそを曲げているのか。
それは、数時間前に遡る。



「今日は身体測定だねえドタチン」

「あーそうだな…」


機嫌良さそうに門田に擦り寄る臨也。
…門田、そこ代われ。まじ代われ。


「今回こそ絶対にシズちゃんとの身長の差縮めてやんだから…!!」


臨也は俺の方を睨んでくる。睨まれても臨也の視界に俺が入っているのならそれはそれで良いかもしれない。
にしてもだ。


「臨也、何でそんなに身長気にすんだ?」

「えっ………あ、その……」


俺が疑問を投げかけた瞬間に臨也は言葉に困った様で、視線を泳がせていた。


「あのなあ静雄…わかんないのか?」

「まったく静雄ったら。俺はすぐ分かったけどね!」


門田と新羅が呆れた様に俺を見てくる。
何故だか二人は分かっているらしい。


「俺にはわかんねえ…」

「っシズちゃんのばーか!!」

「はあ!?」


臨也は門田の背中の後ろに隠れてしまった。

…俺と臨也は最近付き合い始めた。
始まりなんかは分からない。
ただ、いつの間にかお互いを好きになって、お互い愛し合っていたのだ…変な意味ではなく。


「シズちゃんのにぶちん」

「っせえな…」


俺は必死に臨也が身長を気にする理由を考えたが、生憎何も思い付かないまま身体測定が始まってしまった。


「……はい、平和島君…180センチ」

「…ありがとうございます」


冷たい台の上に裸足で数秒のり身長を測ってもらう。やべえ足冷てえ…。
にしてもまた身長伸びたな。


「…っと静雄またデカクなってんな」


肩後ろから、門田が俺の診断書を覗き込んだ。


「ん…まだ伸びるかな」

「伸びると思うぞ。お前絶賛成長期だしな」

「…だよな」


他愛もない身長の話を門田と楽しんだ後、俺より先に身長を測り終えた臨也の元へ行く。
すると臨也は俺を見つけるや否や、俺の元へ駆け寄ってきた。


「シズちゃん何センチだった!?」


俺へのその聞き方があまりにも真剣で少し笑ってしまう。


「んとな…180センチ」

「……………!!!」


臨也は目を丸くし固まった。顔の前でパタパタ手を振るも反応なし。


「あーあ…臨也、残念だったねえ」

「新羅、」


臨也の後ろから新羅がひょっこり出てきて苦笑いを浮かべる。


「ちなみに臨也は165センチ…まあつまり今年も駄目だった、という訳さ」

「何がだ?」

「まだ分からないのかい?」


新羅が心底不思議そうな顔で首を傾げる。


「わかんねえよ」

「仕方ないな…ヒントはキス」

「キス…?」


しばらく考えて「嗚呼」と思い付く。
俺達がキスをする時は、毎回臨也が背伸びをする。
もしや………


「首が痛い、とかか?」


俺が聞くと臨也はみるみる顔を赤くし、廊下から屋上へと走っていってしまった。



……そして今に至る。
臨也は今だ顔を赤くし、体育座りを崩さない。
「死ね」と言われた新羅はショックで固まっている。
門田は…今臨也の為にアイスか何かを買いに行っている。


「……臨也、」

「何」


俺が声をかけると臨也は不機嫌そうにこちらを向いた。
意地でもそこから動かない様子なので、俺が臨也の方へ行き、隣へと座った。


「機嫌直せ、な?」


柔らかな黒髪をゆっくり撫でてやると、臨也の顔も心なしか綻ぶ。


「だって……シズちゃんデリカシーなさすぎ、さいてー」

「…今回は俺が悪かった、分かってるから」

「……」


何か言いたそうに何回か口を開閉させ、臨也は口をつぐんだ。


「おい、何か言いたそうだな」

「……別に」

「ああそうかよ。つかお前新羅に謝っとけ…あいつすげーショック受けてるしよ」


臨也はゆっくりと新羅の方を見る。視線の先では新羅がほうけた顔でへたり込んでいた。


「何あれ…間抜け、」


そんな新羅を見て、臨也は小さく笑った。
嗚呼やっぱりこいつは可愛いな…。生意気な所も我が儘な所もあるけど、やっぱりこいつは可愛い。


「なあ、臨也」

「ん…何?」


俺の呼びかけに臨也は微笑んだまま、答えた。


「あのな、俺やっぱり臨也が好きだ」


そう言うと臨也は目を丸くさせ、次第に顔を赤らめていく。


「何…今、い…ってるのシズちゃん…?」

「首痛いならよ、」


ゆっくりと臨也を立たせる。そして俺も臨也の前にしっかりと立つ。
お互いの顔がよく見えて、互いに互いしか見えない距離で俺は屈んで臨也にキスをした。


「……っ…」


ふわり、と甘い香りが漂う。香水ではない、自然な臨也の香りだ。
俺は触れるだけのキスをして、背を伸ばす。


「こうすりゃ、あんま痛くねーだろ?」


そう笑って言えば臨也は俺の胸に顔を埋めた。


「…うん、そうだね」


と小さく呟いた臨也の声を俺は聞き逃す筈はなかった。





頭一つ分の



「おい、買って来たぞ!」

「おっそーいドタチーン!俺待ちくたびれたあ!」

「(あれ、機嫌直ってる…?)…って岸谷!?どうしたんだ!魂が抜けてるぞ!?」

「あー、門田…新羅はじき戻ると思うから、アイス…臨也にやってくれ」

「静雄…ああそうだな。臨也、ほらアイスだ」

「わーいっ有り難うドタチン!」

「良かったな、臨也」

「うん!」

「(こいつら…仲直りしたんだな、手まで繋いでる)」









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