今日も晴天、実に良い気分で臨也は池袋の街を歩いていた。


(今日は気分が良い、)


いつも出くわす天敵もまだ出会う様子はなく、空を見上げれば雲一つもない青空。


「これでシズちゃんが死んでくれれば最高なんだけどね」


ぽつりと歪んだ笑みで臨也は天敵の名を口にした。
その時であった。


「いいいいいざあああやああああ!!」

「残念、もう会っちゃったよ」


轟音でうなり飛んできた自販機をするりとかわし、振り向くと案の定、
そこには臨也の愛しい愛しい大嫌いな静雄が居た。


「臨也君よぉ、池袋には来んなって何回言ったら分かるんだあ?ああ?」

「嫌だなぁシズちゃん。どこに行こうが俺の勝手であって、君が決められることじゃないんだよ?」


臨也はやれやれと言った様子で静雄へと向き直る。
すると、何故か二つの人影が視界に入った。


「え…幽君?」

「…どうも」


静雄の後ろからひょこりと顔を出したのは、人気俳優の羽島幽平こと平和島幽だった。


「何、二人でデート?」

「ちげぇよ!」

「今日は久しぶりにオフだから兄さんとショッピングです」

「ふーん」


特に興味なさ気に臨也は相槌を打つ。


「じゃあシズちゃんはこれから大好きな弟君とらぶらぶでーとするんだ?」

「んなっ…てめぇウゼェ、殺す!」


静雄が再びこめかみに青筋を立て、更に標識を引っこ抜く。


(そうそうこれこれ)


臨也は心の中で満面の笑みを浮かべる。
幽が居るからなのか静雄はどうも遠慮がちな態度をとっていた。
臨也にとってはそれが気に食わなかった。
それならいっその事俺がシズちゃん怒らせてキレさせようか
と臨也は計画した。
その計画は大成功である。
現に今、静雄は臨也しか視界に入っていない。


「もうこのままよぉ…天に召されちまえ臨也君よお!」


静雄が臨也に向かって標識を振り上げた。
その時、


「ストップ、兄さん」


幽の抑揚のない声が響いた。
それが耳に入った瞬間に静雄のこめかみから青筋が消える。


「……何、幽君。何で止めた訳?」


自分の思い通りにいかない苛立ちが臨也の顔を歪める。


「兄さん街中で暴れちゃ駄目でしょ」

「あ、嗚呼…悪い」


幽に窘められた途端に静雄は大人しくなる。
この状況を見た臨也はふと思った。


「…シズちゃんって牧羊犬みたいだね」

「…は!?」


ぽかんとした表情で静雄は臨也を見やる。


「幽君が飼い主で……」

「俺ですか?」


そう、と臨也は笑った。


「そして俺はいたいけな羊、シズちゃんという牧羊犬に吠えられ追いかけ回される、可哀相な羊!」


臨也が楽しそうに叫ぶ。


「でもさぁ」


と思ったらすぐに顔をしかめた。


「シズちゃん飼い主に弱すぎでしょ、もっと俺を追いかけ回さないと」

「…幽の言う事は絶対だ」

「ふーん、君ってどこまでも忠犬タイプなんだねえ…いっがーい」

「てんめ…!」


臨也の悪態に静雄の堪忍袋の限界がたっそうとしたその時だった。


「臨也さん、」


幽が静雄の体に自分の腕を絡ませ、臨也を見据える。
臨也が気に食わない顔で


「何」


と聞き返すと
ふ、と幽が笑った
ように静雄には見えた。


「兄さんは俺のモノなんで臨也さんはちょっかい出さないで下さい」

「「っな……!?」」


静雄も臨也も驚きの表情を隠せない。


「ね、兄さん?臨也さんより俺をとるよね?」


幽が首を傾げそう聞けば静雄は顔を赤らめ、照れ臭そうに


「…おう」


と小さく返した。


「…だ、そうですから臨也さん」

「何さ」

「俺、羊は飼うつもりないのでお帰り下さい」

「帰れ」


そう低く唸った静雄は近くにあった標識を引っこ抜く。


「え、シズちゃん待って…それはダメ俺死んじゃ…」

「兄さん、追い返す程度にしてね」


「…ああ、わり」


幽が注意すると先程よりいくばかか、殺意を軽減させ静雄は臨也を見据える。


(本当気に食わないんだけど幽君)


「羊はせいぜい兄さんに追いかけまわされるだけでいいです」
「まあ結局兄さんは俺の元に帰ってきますから」
「いつまでも貴方のモノにはなりませんよ」


牧羊犬と羊飼い

追いかけられながら臨也は
心の中で悪態をつく。


(この、従順に飼い馴らされた)
(牧羊犬め。)









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -