例えば俺がシズちゃんに死ねって言えば、シズちゃんも死ねって言ってくる。
例えば俺がシズちゃんに大嫌いって言えばシズちゃんも大嫌いって言う。
「でもさあ」
何だか顔をしかめているシズちゃんの服の裾を引っ張りつつ俺は言った。
「俺が好きって言うとシズちゃん、何も言わなくなるよね……ぐふっ」
ふと疑問を口にすると額に鈍い痛みが走った。
恐らくシズちゃんの手が目の前一杯に広がっていたからデコピンでもされたのだろう。
「…手前は何おかしな事口走ってんだ」
「だってー気になったんだもん」
"俺ら恋人同士なのに"と額を抑えながら続けるとシズちゃんは俺の頭を軽く掴んできた。
「…っ」
シズちゃんの煙草の匂いがふわりと鼻に広がった。それだけで俺の頭は少し霞みがかかったようになり、思考回路が鈍くなる。
最早これは麻薬のようだと俺は自嘲的な笑みを零す。
「…いつも」
そんな中、シズちゃんの口が開かれた。
「いつも死ねとか嫌いとかしか言って来なかっただろ、俺達は」
「…うん、そうだね」
鈍く活動する思考回路の中、ぼんやりと視界に写るシズちゃんの姿はいつも通りに見える。
「だから今更、好きだの愛してるって言っても…違和感しかねえ」
そう言った後にシズちゃんはゆっくりと俺の頭から手を離し、俺に顔を近づけてきた。
「…シ…ズちゃん」
先程よりもはっきりとした煙草の匂いにくらりと目眩を覚える。
「臨也、選べ」
そう言ったか否かシズちゃんの唇が俺の唇と重なる。
最初は軽く触れて、段々と深くなっていくそれを俺は受け入れる。
「…っん」
苦い煙草の味の中に、仄かに甘い味。
嗚呼、彼みたいだななんてぼんやりした頭で思う。
「ん…、っは」
離れた後も尚、唇には熱が残っている。
シズちゃんの方を見るといつになく真剣そうな瞳で俺を見つめてこう言った。
「言葉かキス、どっちか選べ」
「…?」
「だから…」
よく分からないと言った表情をすれば、シズちゃんはがしがしと頭をかき、もう一度、触れるだけのキスをしてきた。
「ん…シズちゃん?」
「違和感が残る、…愛、の言葉か、今みたいなキス。…臨也、手前はどっちが良いんだよ」
眉を潜めて聞かれた。
どっちって…。
そんなの決まってる。
「…キス」
"俺、シズちゃんのキス嫌いじゃないよ"なんて呟けばシズちゃんがボソボソ何かを言い、俺を抱きしめてきた。
そうだね、シズちゃんが"愛してる"とか"好きだ"とか言ってきても違和感が有るかも、ね。
今こうやって抱きしめられたり、キスされた方が不思議と"愛されてる"って思える。
「シズちゃんのキスってさあ、シズちゃんに似てる」
「…は?」
「いっつも死ねとか苦い事しか言って来ないけど、こうやって抱きしめたりする時は甘いんだよね、雰囲気が」
それが君のキスにそっくりだよ。
「…お前キスとかは結構恥ずかしがるけど、恥ずかしい事は平気で言うよな」
真顔でシズちゃんがそんな事言うから、何だか少し可笑しくなって俺は思わず笑った。
そんな俺を見てシズちゃんは困ったように頭を掻いた。
ある意味似た者同士
(どことなく似てる気もしなくもない)
(そんな俺達)
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