一人は寂しいから嫌いだ。
テレビを見ながら俺が至って真剣に呟くとシズちゃんは吹き出した。
失礼だなおい。
台所から出てきたシズちゃんは紅茶の入った二つのティーカップを慎重に机に置いてから、何故か俺の目の前に座る。
「お前、熱でもあんのか」
「は?そんなもの無いよ。いきなり何言ってんのシズちゃん」
俺の額に暖かな手を当て笑いながら聞いてくる。
何だかその様子に俺は彼に馬鹿にされてる気がしてむっとする。
「拗ねんなよ、綺麗な顔が台なしだぞ」
「なっ…」
馬鹿にされたかと思いきや今度はデレが来た。
脈絡もクソもない台詞だったのに俺の心臓はきゅんと高鳴る。
「ば…っかじゃないの」
たどたどしく紡いだ否定の言葉は全く力が無く。
シズちゃんの笑いを更に誘うだけだった。
「ていうかさシズちゃん、その態度俺に至極失礼だと思わない訳?」
ムカムカしながら俺は今だ目の前に座る彼に問いかける。
シズちゃんはキョトンとして、まるで『失礼?何処が?』といいたげだ。
嗚呼、ムカつく!
「俺が一人は寂しい宣言して笑うとか酷いよ、俺は真剣に言ったのに…」
仕方なく俺の心情を吐露する。
するとシズちゃんは「嗚呼」と手を打ち、何故か俺を自分の方へと抱き寄せた。
「…は?」
いきなり抱きしめられ俺は馬鹿みたいに間の抜けた声をあげる。
「お前さ、可愛い」
「は?」
抱きしめた後の開口一番が可愛い?
俺が?
意味が分からない。
理解不能。
俺の頭は今の状況を上手く飲み込めずにいた。
「寂しいって思うんだな、お前でも」
耳元で優しい調子でそう言われて、かあっと頬が赤くなる。
「…だ、って…一人だと、俺に答えてくれる声が無いし…」
途切れ途切れに何故か必死に、俺はシズちゃんに言った。
「温もりも、忘れていくだろうし…」
嗚呼、何で俺はこんな馬鹿な事を馬鹿なコイツに話しているのだろう。
「俺は、」
「臨也」
「ん…シズちゃっ…!?」
訳が分からないぼんやりとした意識になってきた中で感じた唇への温もり。
俺の口の中へ微かに入ってくる苦み。
俺、シズちゃんにキスされた。
思わず俺はシズちゃんを突き飛ばした。
実際には唇がぎりぎり離れたくらいだったけど。
「…のな、臨也」
「…っんだよ…」
思わず更に赤くなる顔を隠しながら返事をすると、不意に頭を撫でられる。
「…臨也、いい加減気付けよ」
「何をだよ」
「わかんねえのか」
そんな事言われたって何に気付けと言うのだ。
本当に会話の脈絡ないよなと思いながら分からないと言う代わりに俺は小さく首を横に振った。
するとシズちゃんは小さくため息をついて再度俺を抱きしめた。
そして一言ぽそりと呟いた。
「俺が傍にいるから一人にならねえだろ」
「…っぷ」
その言葉を聞いて俺は小さく吹き出す。
「っ笑うんじゃねえ!」
「だって、シズちゃんがまさかまさかのキザな台詞言ったから、可笑しくって!っはは!」
顔を仄かに赤くして怒るシズちゃんを尻目に俺はしばらく笑っていた。
温んだ紅茶は入れ直そうかな、二人分。なんて幸せな事考えながら、さ。
今日も明日も
(傍に居てね)
(一人にしないでね)
(抱きしめてくれる)
(君の優しさ)
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