少しは素直になりたい。
何でいきなりそんなよまい言をと言われるかも知れない。
「臨也ー…」
「ちょっシズちゃん、重い、よっ…」
横から体を寄せられ、少し圧迫感を覚える。
肩に伝わる優しい体温の持ち主はシズちゃん、俺の恋人である。
「少しくらい良いだろ」
何て低い声で囁かれたら俺は黙って圧迫感に耐える事しか出来なくなる。
にしても…信号待ちの度にイチャイチャとしてくるのは止めて欲しい。
別にイチャつくのは嫌じゃない。
ただ、場所というのが有るだろう?
残念な事にシズちゃんには常識が無いから、こんな公共の場で俺に引っ付いてくるのだろう。
「臨也、何故俺から距離をとる」
「決まってるでしょ、馬鹿。自分で考えなよ」
何処かの名前も知らない女の子に好奇心たっぷりの瞳で見つめられ、俺は恐怖を覚えたので慌ててシズちゃんと距離をとる。
肩に感じた緩やかな体温が無くなると少し肌寒く感じた。
心臓が煩いのはいつもの事。
シズちゃんと居たらいつだって心臓はいくつあっても足りない。
常識なくて馬鹿力で、単純で馬鹿で。
でも『そんな奴の何処を好きになったんだ』、と聞かれたら多分俺はすぐに答える。
『俺を愛してくれる所だ』と自信持って、さ。
「いざやあ、さみい」
「自分一人であったまっとけば?」
「風つめてーしよ」
「風避けてれば?」
俺はシズちゃんが思ってる以上にシズちゃんに惚れてる。
もう戻れないくらいには彼を愛してる。
俺が憎まれ口を叩いても、もう怒る事をしないで黙って手を握ってくる。
仕方ないから俺も彼の手を握り返す。
「こうしたらちょっとはあったけえよな」
シズちゃんの手はあったかくて、顔を見ると寒さなんて感じてないような平然とした顔で。
「…もう寒くないか?」
なんて聞いてきて。
あ、何かもう本当に俺、コイツ好きだ。
って理由もなく心臓高鳴らせて。
「ちょっとはマシだけど、まだ寒い」
いつも素直になれなくてゴメンねシズちゃん。
信号が青に変わるまでのちょっとの間だけ素直になってあげる。
「だから、ぎゅってしよ?」
答えを聞く前に俺は思い切りシズちゃんに抱き着き、腕に力を込める。
数秒もしないで俺の背中にシズちゃんの腕が回される。
「…あったかい」
「…だな」
抱きしめあっている腕の隙間から外の様子を伺うと、こちらを先程の少女がまた好奇心旺盛な瞳で見つめていた。
「…これ以上は有料だよ」
意味もなく呟いてから、『俺も大概常識無しだよな』なんて思った。
SIGNAL
(赤から青に変わる)
(その間だけは)
(常識無しになってあげる)
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