28 間接キスは甘くて酸っぱい 結局俺は何処に行くか決められず、1時になってしまった。 『ごめんなさい!遅くなりました!』 走って寄って来たのは、俺の待ち人名前。 静「いや、待ってねえから気にすんな」 そう言うと、名前はいつもの俺の好きな笑顔でありがとうと言う。 静「悪い、何処行くか決まらなかった」 『私、セルティさんに会いたいです』 セルティか。 俺としては2人でどっか行くつもりだったから複雑な心境だ。 いや、何処に行くか決められなかった俺が悪いんだが。 静「ちょっと待ってろ」 携帯を取り出して電話を掛けた先は新羅。 新「はい」 静「新羅か?」 新「…僕の携帯に掛けたんだから、僕が出て当然だよね。静雄の言う通り私は岸谷新羅だよ」 それもそうか、と一人で納得。 静「今日セルティどんくらいに帰ってくるか分かるか?」 新「まさかセルティにアタックしようってかい!?許さないよセルティは俺の恋人であり、パートナーであり、未来のお嫁さ」 静「阿保か。んな事しねえ。名前がセルティに会いたがってる」 新「ああ、成る程ね。きっとセルティも喜ぶよ。大歓迎さ。今日は確か…6時頃だったかな」 静「そうか。さんきゅ。そんくらいに新羅ん家行っても平気か?」 新「大丈夫だよ。ところで、静雄。今日静雄と名前ちゃん、2人とも学校休んだよね。何があーーー」 俺は話が長くなりそうだから、新羅の言葉を無視して通話を切った。 静「セルティ、6時頃帰ってくるってよ。6時になったら新羅ん家行こう」 『はい!』 静「それまでは…適当に回るか」 『そうですね』 こいつは何処に行くって言っても笑って喜んでくれる。 だから、だからこそ楽しんでもらいたい。 俺とて碌に友達なんていなくて、楽しい遊び場やお洒落なお店なんて全く知らない。 その事実を今突きつけられてるようで、自分に腹が立つ。 2人で適当に歩き始める。 『あっ』 どっか遠くを見つめて声をあげる。 静「どうした?」 『い、いえ!なんでもっ』 静「言ってみろ」 『んんん…クレープ屋さん…』 名前が指差した方をむけば、移動式のクレープ屋。 静「クレープか」 俺は名前の手を引きクレープ屋に近付く。 『静雄さんっ!?』 静「何が良いんだ?」 『大丈夫です!自分で買いますからっ』 静「昨日今日の礼ぐらいさせろっての」 顎に手を当てて名前は考え込んでいたみたいだが、ゆっくりと俺を見上げた。 俺のが身長が高いから、必然的に上目遣いになるわけで。 あっ、可愛いなんて思ってしまった俺は末期なのだろう。 『いちごとラズベリーのチョコレートクレープ…』 最初からそう言ってくれりゃ良いのに。 いつもの如く頭をわしゃわしゃと撫でると、さっきシャワーを浴びた所為かいつもよりシャンプーの匂いが濃く鼻を掠めてドキッとした。 俺は逃げるようにクレープ屋で注文をした。 俺はチョコバナナのカスタードクレープ。 場所を移動して、いつか名前と来た公園に入ってベンチに座る。 もぐもぐとクレープを食べる名前の姿はなんとなく小動物を思わせる。 名前をじっと見ていたら気付かれてしまって目が合う。 『?』 静「っ…」 『…!食べます?』 何を閃いたのか、食べ掛けのクレープを差し出す。 静「…」 どうしよう。貰わないと名前を見つめていた説明が付かない。 だからと言って貰ってしまえば、か、間接キス… でも食べてみたい気も… 俺は名前の持ったクレープを受け取り、その代わり自分の持っていたクレープを名前に持たせた。 静「んまい」 口一杯に苺とラズベリーの甘さと酸っぱさが広がる。 『んん、美味しい!』 その笑顔を見たら口の中だけじゃなくて心の中にも甘い何かが広がったような気がした。 [しおり/戻る] |