化け物×化け物 | ナノ




26 私と君との距離感


静雄さんが公園に帰って来るのを待っていたら、日が暮れてしまって。
結局静雄さんが帰って来るのを待たず帰宅。

『明日、謝って…それから静雄さんが何を言おうとしてたのか聞かなくちゃ』

部屋に着いて明日するべき事を確認。

『よし!今日はカレーが食べたい!物凄くカレーが食べたい!カレーを作ろう!』

野菜は家にあるものを適当に使う。
切って炒めて煮る。
ご飯も炊いた。完璧だ。

『…ああっ!!』

最後の最後。
カレー粉を入れようとした時に事件は起こったのです。

『カレー粉…無い…』

そういえば前回カレー作った時に使い切っちゃったなあなんて今更思い出す。

もう気分はカレーライス。ご飯も炊いてしまった。野菜も煮ている。

時刻は8時すぎ。

『買いに行こう』

仕方あるまい。自業自得だ。

お財布と携帯とエコバッグを持って家を出た。





スーパーでカレー粉と、ついでにアイスを買って帰る。

『あれ…?』

遠くに見える金髪の制服着た人は、きっと静雄さん。
いつもと違うのは、その制服や体がボロボロだっていうこと。そしてヨロヨロしてるっていうこと。

私は走って静雄さんを追い掛ける。

『静雄さん、静雄さん!!!』

静雄さんはゆっくりと振り返る。

その顔からは所々流血していた。

静「なんでこんな時間にいんだよ」

ちょっと不機嫌そうに顔を顰めて言う。

『今はそんな事どうでも良いです。ちょっと来てください』

私は静雄さんの手を引いて歩き出す。
静雄さんの制止も聞かず、夜の街をただひたすら歩いた。





『あがってください』

連れてきたのは自宅。

静「いや、それは」

『いいから、上がるんです!』

渋る静雄さんの背中を押して無理矢理部屋に入れる。

『そこのベッドに座っててください。あと、ブレザーとシャツも脱いどいてください』

静「は!?ちょ、名前っ!?」

その間に買ってきた物を冷蔵庫にいれ棚から救急箱を取り出す。
あまり使われてなかったそれは、薄ら埃を被っていた。

静雄さんの方を向くと、考え込むような顔をしていた。まだブレザーすら脱いでいなかった。

『脱がしますよ』

静雄さんは目を見開いて私を見た。

顔が赤い。怪我だけで無く、熱もあるのだろうか。だから今日はそんなにボロボロなのだろうか。

私はシャツのボタンに手を掛ける。

静雄さんは私と、テーブルに置いた救急箱を交互に見やる。

静「…ああ。そういうことか。大丈夫だ自分で脱げる」

静雄さんは私から顔を背けてそう言って自分で脱ぎ始めた。

所々刺し傷のような物があって痛々しい。

背中の傷を消毒する為に後ろに回り込む。

静「なあ」

『んー?』

静「クリスマス一緒にどっか行かねえか」

ぴたり、と手が止まる。

『今日言おうとしてた事ってそれですか?』

静「ああそうだ。でも臨也の奴に邪魔されて言えなくて…あいつもあいつで苛々してたみてえで、俺も苛々してて派手にやってたらこうなった」

『ふふっそっか』

背中の傷の手当は終わった。
私はベッドを降りて静雄さんの前に行く。
今度は顔の手当だ。

『静雄さん。私、クリスマスに行きたい所があるんです。駅から少し遠いカフェなんですが…クリスマスだけ、その、カッ…カップル限定のメニューがあって!それで静雄さんくらいしか誘う人いなくて、それで…』

男女2人なら、本当のところ京ちゃんだって良い。でも私は静雄さんと行きたかった。静雄さんと一緒に行きたい。

そう上手く伝えられない私はそんな嘘みえみえの理由を述べる。

きっと私は今顔が赤い。

静「名前…」

静雄さんは私の頬を片手でそっと包み込む。

顔の傷の手当をしていたせいで静雄さんと私の顔の距離は凄い近い。

…違う、静雄さんの顔がだんだん近づいてくる。

もう、くっついてしまうんじゃないかと思う程の距離。

静雄さんはハッとした顔をして後ろに体を引いた。

静「わ、悪い!!!ごめん!!!!」

『だっ、だだ大丈夫ですよ!ね!』

(ちゅーしちゃうのかと思った)

『もう夜遅いですし夕飯食べてってください!!ね!!!!』

静「えっ!?あ、おう!!」

私はこの煩い心臓のドキドキと火照る顔を隠す為に台所へと走った。






作るって言っても、既にカレー粉を投入するだけの状態。

買ってきたカレー粉を鍋に入れて火を付ける。

お皿にご飯を盛って、作ってあったサラダのラップを外す。
お米は明日の朝や昼用に多めに炊いてある。

鍋の火を止めてカレーをご飯にかける。

『できましたよ』

持てるだけのお皿を持って、部屋に戻る。
静雄さんは窓を開けて外を見ていた。

静「おっ、美味そう」

『へへっ』

褒められた事に対して純粋に喜びを感じる。

残りのお皿も運んで来て着座。

『さあ、食べましょう!召し上がれ!』

静「いただきます」

私は静雄さんが食べるのをじっと見つめる。

静「美味え」

『良かったー!』

私も食べ始める。ほんのり辛さが口に広がる。




作るのは時間が掛かって食べるのはあっという間とはまさにこの事だ。

『アイスありますが、食べますか?』

静「おう」

今日買ってきたアイスを静雄さんに手渡す。
私の大好きなチョコレートのアイスキャンディー。

静「何から何まで悪いな」

『お気になさらず』

それからの会話は無く黙々とアイスを食べる私達。

食べ終わって静雄さんを見ると、アイスを手に持ったまま制止する静雄さん。

『静雄さん…?』

顔を覗き込むと目を閉じている。
微かにスースーと寝息が聞こえる。

今日は沢山喧嘩して動いたし、疲れていたのかもしれない。

食べかけてある静雄さんの手の中のアイスをそっと抜く。

どうしようか迷ったけど、溶けちゃうし食べることにした。

ゴミや食器を片付ける。



さて、どうしようか。

起こすのも忍びない。だからと言って私一人で静雄さんをベッドに乗せることは不可能だ。

『うーん…』

起きちゃうかもしれないけど、その場に寝かす事にした。

案外眠りは深いようで、静雄さんを起こさずに床に寝かす事が出来た。

今は12月。すっかり冬だ。そして布団は一つ。予備は、無い。

だから仕方ない。しょうがないのだ。これは不可抗力。

ベッドから布団を引っ張って静雄さんに掛ける。私もその中に潜り込む。

『おやすみなさい、静雄さん』

静雄しんの綺麗な寝顔を間近で見つめてから、瞼を落とす。

感じたことのない程の安心を感じながら私は眠りについた。




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