化け物×化け物 | ナノ




24 反則攻撃


----時は少し戻って昼休み----

俺は名前と屋上に向かってた。
なんだかいつもと違って名前がソワソワしてるというか、なんというか…

そう、挙動不審だ。


屋上のドアを開けた瞬間名前は走り出して行ってしまった。
咄嗟に手を伸ばして掴もうとした俺の手は空を切り行き場を無くした。

泣きじゃくる名前が門田に抱き着いてる。その光景に、門田や名前や新羅が何を話してるかなんて頭に入って来やしなかった。

門「静雄はどうする?」

静「あ?」

突然投げ掛けられた言葉に俺の頭は付いていけるはずが無かった。

新「勉強会だよ」

勉強会、か。

俺は行く、とだけ答えてみんなの元へ歩いて行った。








帰り道、というか名前の家に行く途中。

名前がヨロヨロしてる事に気付いて観察してると、表情がコロコロ変わってる事に気付いた。

「大丈夫か?百面相してるぞ?」

そう声を掛けると今度は驚いた顔になった。

『大丈夫ですよ!……っとととうわぁっ』

名前がくるっと体を回した瞬間後ろにつんのめって倒れた。

静「お、おい大丈夫か!?」

手を差し伸べて来てくれる。
名前は手を握り立ち上がる。

『すみません…全然大丈夫です』

にへら、と笑うと名前が笑う。
じゃあなんでヨロヨロしてたんだ。
じゃあなんで転んだんだ。

疑問は尽きなかったが、名前より少し後ろに転がってる鞄が眼に映る。

鞄の元へと歩いていく。
そして持ち上げる。

俺にとっちゃなんともねえ重さの鞄。
だけど恐らく鞄の中には余す空間なんて無く、ぎっしりと何かが入っている。それなりに重量を持った鞄だ。

だからヨロヨロしてたのか。

『えっ』

静「お前…こんな重いもん持ってたのかよ。言ってくりゃぁすぐ持ったのによ」

『そんな!大丈夫です余裕です!申し訳ないです自分で持ちます!!』

静「俺は…まぁ知っての通り馬鹿力だ。こんなもん持つのに造作もねえ。だけど名前にとっちゃ重いだろ」

俺はそんなに頼り無いだろうか。
なんでこいつはいつもいつも自分だけで何かを解決しようとするのだろうか。
なんで無茶しようとするのだろうか。

もっと頼ってほしい。

『ぅぅ…じゃあ、よろしくお願いします』

最初からそう言ってほしかった。
最初から頼ってほしかった。

申し訳無さそうな、それでいて嬉しそうな名前の顔を見たらなんだか笑えた。

安心した。

静「無理すんな」

俺は照れ隠しに名前の頭を掻き混ぜて門田と新羅のとこへ歩いて行く。








『どうぞ散らかってるますがお入りください。』

名前の家に着いた。路地を奥へと入って閑散としたとこにあるアパート。

門「邪魔するぞ」

門田は慣れているのか、普通に入って行く。

新「お邪魔します」

よくそんな普通に入れるな。

なんだかわかんねえが、心臓が煩い。

静「お邪魔します」

ドアをくぐると、俺の家と対して変わらない広さの空間。
でも俺の部屋なんかより生活感があってそれでいて片付いてる。

だけどその部屋には名前の匂いが充満している。充満しているし、濃い。

ああ、頭がくらくらする。



俺らは一つのテーブルを囲んで教科書やらノートやら問題集を出す。

新羅は名前に数学を教えて始める。

あー、クソ。俺も頭良かったら教えてやれんのに。

俺はあまりまともに授業を受けてないから、殆どの教科がいつも赤点ギリギリ。

何から手を付けようか。

静「門田何やってんだ?」

門「物理だ」

物理か。物理持ってきてたっけか。

あー、あったあった。

俺も物理を取り出して広げる。

問題を読んでいくが最初の1問目からさっぱり分からん。全然分からん。

静「門田これ…」

門「これはーーー」

俺は門田に物理を教えてもらう事にした。
門田の説明は多分分かりやすい。
多分と言うのは、俺には難しくてよく分からないからだ。


---時刻にしてPM7時---

新「そろそろセルティが帰って来るから僕帰るね」

『ありがとうございました!おかげでだいふ分かるようになりました!』

新「いえいえー。じゃあまた明日」

門「おう」

静「じゃあな」

新羅は帰って行った。
相変わらずあいつはセルティの事が大好きみたいだ。セルティの話になるとあいつのマシンガントークは止まることを知らない。

門「台所借りるぞ」

『はーい』

門田は台所へ行った。

とういことは、だ。今は名前と俺が向かい合って座って勉強をしている。

俺は勉強に飽きて名前を見る。

一生懸命数学の問題を解いてる名前の姿。

良いな、なんて思ってしまう俺は相当名前に惚れ込んでいるのだろう。

『どうしました?』

見ていたことに気付かれてしまった。

静「あ、いや。勉強飽きて…」

俺がそう言うと、名前は上に背伸びをした。

『私もあまり勉強は好きじゃないです』

静「ああ」

『でも、私は静雄さんと一緒に学年上がりたいです。ずっと一緒にいたいです』

静「っ…」

そんな事を言ってにっこりと笑う名前。
そりゃ、反則だ。

静「俺もだ」

名前に聞こえるんじゃないかと思うほど心臓が煩い。
顔が火照る。

『数学や物理とかは無理だけど、現代文や古典なら教える事できますよ』

静「じゃあ、頼む」

俺は目の前の物理を仕舞い、古典を出す。
古典も苦手だ。いや、俺に得意教科なんてねえ。しいといえば体育くらいか。

それから俺は名前に古典を教えてもらった。俺に分かるようにゆっくり丁寧に教えてくれて、正直かなり助かった。




門「出来たぞー」

門田が美味そうな匂いと共に帰ってきた。

手にはオムライス。

『わーい!京ちゃんありがとー!!』

一旦勉強道具を全て下に置き、テーブルの上を片付ける。

三人分のオムライス。

静「門田悪いな。」

門「いや、2人分も3人分も変わんねえよ」

静「さんきゅ」

「「『いたたきまーす』」」

『ん〜〜!!京ちゃんの作る料理大好き!美味しい!!ありがとっ!』

名前の言う通りオムライスはめちゃくちゃ美味かった。

門田は勉強も出来て、料理も出来て…何でも出来るんだな。

俺とは大違いだ。

と、自己嫌悪という負の感情が俺の中に渦巻く。




食べ終わって勉強再開。

俺は再び物理。

ちょっとずつ、本当にちょっとずつだか門田のおかげで解けるようになってきた。


寝息が聞こえて顔を上げると、名前が机に突っ伏して寝ている。

門「今日はここでダウンか。まあ、よく頑張った方だな」

そう言って門田は名前を所謂お姫様抱っこという奴で持ち上げ、ベッドへと運んだ。

門「名前の家で勉強をするのは理由が2つあってな。一つは、今日言った通り夜に出歩かせたく無いってこと。もう一つは」

門田はそこまで言うとちらりと名前を見やる。

門「夕飯食べると眠くなってすぐ寝るからだ」

静「成る程な」

門田は本当によく名前の事を考えている。何が名前にとって一番良いのか、考え抜いてある。

尊敬するし、なんだか羨ましい。

門「帰るか」

静「そうだな」

俺は寝息を立てて良く眠ってる名前を見る。

『静雄、さん…』

今確かに俺の名前を呼んだ、よな?
どう見ても眠っている。寝言か。

ああ、反則だ。反則技だ。

顔の熱は冷める事を知らないようだ。
急いで荷物をまとめて門田と家を出た。


何かの童話の世界にいそうな名前を目に焼き付けて。


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