化け物×化け物 | ナノ




22 不器用な優しさ


新「もうそろそろ松葉杖使わなくても歩けるようになるし、包帯もそんなグルグル巻きにしなくて大丈夫だよ。だから、今日帰りうちに寄ってって」

今は昼休み。此処は教室。

1学期は屋上で昼食を摂っていたのだが、私が足を骨折して松葉杖になってからは私の机の周りで食べるようになった。

人は変わらない。静雄さんと岸谷さんと京ちゃんだ。

そして唐突に岸谷さんから切り出された言葉は普通なら素直に喜ぶべき言葉だった。

『そう、ですか。わかりました』

松葉杖の生活は何かと不便だ。煩わしい。

けれども、良い事もあったんだ

『一緒に登校出来なくなっちゃうな』

ハッと気付いてみんなを見渡すと私の顔を驚いたように見ていた。

心の声が溢れてしまった。恥ずかしい。

『や、その…!なんといいますか…』

静「まっ、松葉杖使わなくなっても!!一緒に登校すりゃいいだろ!」

静雄さんがしどろもどろそう言う。

『ち、ちちち違うんです!!ごめんなさいそんな我儘言うつもりじゃっ』

新「静雄はね。名前ちゃんと一緒に登校したいって言ってるんだよ」

静「なっ!!新羅てめぇ」

静雄さんが岸谷さんに掴みかかろうとする。

新「違うのかい?」

動きが止まる静雄さん。
聞き取れるか聞き取れないかの声で静雄さんは「そうだ」と言うとそっぽを向いてしまった。

『ふふっ静雄さん!一緒にこれからも登校しましょう!』

静雄さんは「ああ」と言うとパンを齧った。








いつものように静雄さんにおぶられて帰る。
いつもと違うのは行き先が自宅じゃなくて岸谷さんの家だということ。

新「セルティも君に会いたがっていたよ」

『セルティさん…!!』

私もセルティさんにはやく会いたい。







『おじゃまします…』

二度目となる岸谷さん宅。
前回はいろんな事がありすぎてあまりよく覚えてなかったけも、物凄く綺麗で広い。

新「こっちこっち」

私は静雄さんにおぶられたままリビングへ入る。

そしてソファーに降ろされる。
ふわふわで肌触りも良い。ここで眠れてしまいそうだ。

岸谷さんはさっそく包帯を外しはじめた。

室内をぐるりと見渡す。

新「セルティは今仕事で出掛けてるんだ」

『そうですか…』

あっという間に包帯は全て外される。
久しぶりの開放感に少々感動。

新「静雄、このタオル濡らしてきて」

静「おう」

すぐに静雄さんはタオルを濡らして、岸谷さんに渡す。
岸谷さんは丁寧に私の足を濡れタオルで拭いてくれる。
足の指を拭かれると少しくすぐったい。

再び岸谷さんは包帯を巻き始める。さっきのとは違う、少し綺麗なもの。




新「よし!おっけいだよ」

今までより幾分も軽くなった包帯。

『何から何まですみません!ありがとうございます!!!』

新「そんなのいいよ〜。もう普通に歩けるとは思うけど暫くは巻いといてね。」

静「良かったな」

『はい!』

新「セルティがさ。君に会いたがってるから、夜ご飯食べて行きなよ。勿論静雄も」

『い、いいんですか?』

新「うん。その方がセルティが喜ぶから」

『じゃあ、是非とも』

私は岸谷さんの言葉に甘えてしまうことにした。セルティさんにも会いたい。久しぶりにお話したい。






それからあまり時間経たずにセルティさんは帰ってきた。

セ(名前会いたかったぞぉぉおお)

(わっセルティさん!私も会いたかったです!)

セルティさんは帰ってくるなり私に抱きついてきた。あたたかなぬくもりを感じて、なんだか安心してしまう。

新「セルティおかえり!さあ、私にも抱きついて良いんだよ!いや抱きついて!!!そしてそのままベットへぐぼぉっ」

岸谷さんはさあ来い、とでも言わんばかりに手を目一杯広げていた。
岸谷さんの言葉はセルティさんの攻撃によって中断。

セ【ただいま新羅。静雄も、ようこそ】

静雄さんは「ああ」と短く返事をする。




それから私はセルティさんと一緒にご飯を作ることになった。
メニューは王道のカレーライス。

野菜を切ってお肉を切って炒めて煮込んで。

セルティさんの手際もよく早く作れた。

味も完璧。

『よし!できましたよー』

カレーライスやサラダを食卓に並べる。
それから私たちはたわいもない話をしてご飯を食べた。

『あっもうこんな時間』

さっきまで夕方だと思っていたのにもう星が出ていた。時刻は9時。

静「ああ、ほんとだ。帰るか」

片付けもし終わっていたので荷物をまとめる。

岸谷さんとセルティさんが玄関まで見送りに来てくれた。

今日は楽しかったな。誰かと夜ご飯を食べたのなんていつぶりだろう。京ちゃん家以来かな?また来ても良いのかな。

『今日はお世話になりました。楽しかったです』

静「邪魔したな」

セ【またいつでも来てくれ!私も今日は凄く楽しかった。】

新「また来てね。セルティも喜ぶし僕も歓迎するよ」

『はい!お邪魔しました!!』

私達は岸谷さんとセルティさんに見送られながら玄関を出た。
星がきらきらと輝いていた。
もうすっかり空気は冷たく身震いした。
まだまだ暑いなんて思っていたのにすっかり秋だ。いや、もうすぐ冬なのだ。

季節は11月。

久しぶりに地に足を付けて道路を歩く。
骨折してからは静雄さんに乗っての移動が常だったから。

『楽しかったです』

静「そうだな」

『静雄さん。静雄さんのお家はどこですか?』

静「?えっと、こっからだと15分ってとこか」

『じゃあ送って行きます!』

名案だ。ずっと送ってもらっていたんだもの。たまには静雄さんをお家まで送っていこう。お返ししよう。

静雄さんは驚いた顔をする。

『あだっ』

そして私のおでこの前で指を輪っかし、発射。デコピンをくらってしまった。

静「阿保か。俺が送ってく」

『な、なんでですか!だってずっと送ってもらってばっかだし』

静「俺が送りたいんだよ」

私の言葉を遮って静雄さんが言う。そう言われてしまえばなんの反論も出来ない。

静「心配なんだよ…」

心配?何が?どうして?

そんな疑問を抱えて静雄さんを見る。

『どうして?』

ため息混じりにお前なぁ、と言う呆れた様子の静雄さん。

静「良いか?俺はお前の事が心配なんだ。警戒心強い様に見えて無防備だし…」

『へ?』

静「そっ、それに俺と関わってると目ぇ付けられやすいっつうか」

そこまで言うと黙り込んでそっぽを向いてしまった。

ここ最近で静雄さんの優しさを本当に、ひしひしも感じる。

『静雄さん』

私は静雄さんの前に回り込む。

『心配してくれて、ありがとうございます』

静雄さんは、狡い、と呟いて再び黙ってしまった。何が狡かったのかは分からない。

静雄さんの顔が赤い。私の顔もきっと赤い。
でもきっと怒らせてしまったわけじゃない。
だって身長も高くて足も長くて足の速い静雄さんが、私の歩くペースに合わせてくれるから。

静雄さんは不器用だけどただひたすらに優しい。それが私には嬉しくてたまらなかった。



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