※同居(同棲?)設定








「シーズちゃん」

臨也はものすごい力で背後から静雄を抱き締める。料理している手元が狂いそうになった、危ない。
静雄は野菜を切って、カレーを作っているところだった。
ここのところ、仕事を終えてこの部屋に帰ってきては、買い物をして料理を作るというのが静雄の普通になっている。
そもそも何故静雄が臨也と暮らしているのか。
この二人は数カ月前からこういう関係になったのだが、事の発端は数週間前の喧嘩した後の臨也の一言からだった。

『二人で一緒に暮らしてみない?』

そう言って臨也は右手の指輪を外し、静雄の前で静雄の左手の薬指にその指輪を嵌めた。静雄は、その指輪がピッタリと嵌まったのをよく覚えている。
それから私物の少ない静雄は荷物をまとめることも簡単だった。すぐに荷物をまとめて、指定された部屋に送って、自分も部屋を出た。
あの時の臨也の真意は静雄にはわからなかったが、静雄がその生活に期待しているのは事実だった。
現に、今だって鬱陶しいと思いながらも、楽しいと思っている。

「今日の晩御飯は何かなー?」
「普通のカレーだ」

手元を覗き込む臨也を無視して静雄は淡々と野菜を切っていく。最初は指を切ったり、小さな火傷をしたりしていた静雄も、ここのところは手慣れたものとなってきていた。
そんな静雄の料理の上達ぶりを見て臨也は頬を緩ませる。本当、お嫁さんみたいだな。臨也は抱き締めながら静雄の背中に顔を埋めた。
静雄はぐりぐりと押し付けられる感覚を感じて、文句を言うために後ろを見る。

「シズちゃんの匂いがするー」
「おい、恥ずかしいからやめろ」
「やーだ」

未だに静雄の匂いを嗅いでいる臨也に溜め息を吐いた静雄は、臨也を完全に無視することを決め込んだ。
臨也はそれを好都合と言わんばかりに、静雄の腰を撫でたり耳を触ったり形の良い尻を撫でたり。一般的にはセクハラと呼ばれることを、池袋最強と謳われる男に臨也はしている。
誰が彼のことを強いなんて言ったんだろう。俺での前のシズちゃんはこんなにも。臨也は頬を緩ませた。
静雄は臨也のそんな状態など知らず、傍から、背後から香る恋人の匂いにただ目を彷徨わせる。
こんなに距離が近かったのは何時以来だろう。ぐるぐると考えていると手元が覚束なくなってきそうになったから、料理に集中することにした。
そのままトントンとリズムよく野菜を切る音と、鍋の水がぐつぐつと沸騰する音が響く。
耐えられずに先に口を開いたのは静雄だった。

「い……いい加減離せ」

最初に口から出た言葉は声が裏返って上手く言えず、少し咳払いをしてからもう一度言い直した。
そんな静雄に喉の奥で笑いながら、臨也は静雄の耳の輪郭を撫でるようになぞる。
その瞬間、静雄の体が跳ねたのも見逃さず。臨也はきっちりと着こなされたピンクのエプロンの間からゆっくりと手を侵入させた。
静雄はそれに気付いて慌てて後ろを振り返る。

「んー、やっぱり落ち着く」
「手前が落ち着いても、俺が落ち着かねぇんだよ!離れねぇと刺すぞ!」
「おー怖い怖い」

静雄が怒ったように言っても、そんなことをしないとわかっているから離れない臨也は質が悪い。
口許だけ歪ませた笑みを浮かべて、シャツの中まで手を侵入させた。
静雄は血の気が引くのを感じる。

「や、やめろ!今料理してるから、本当そういうのは夜中だけにしてくれ…!」
「ふーん、夜中ならいいんだ?」

揶揄するように向けられた視線と目が合う。静雄は頬が熱くなっていくのを感じた。
自分で墓穴を掘った。完全に自分から言ってしまったことなのだ、今日の夜を覚悟して溜め息を吐く。
臨也は静雄から腕を離してひらひらと手を振ってみせる。静雄は離れていく感触にどこか寂しさを感じたが、何も言わずに留めておいた。
野菜を切り終えてフライパンに油を布き、野菜をいためていく。炒まったら鍋の中に野菜を入れて、お玉で様子を見ながら混ぜる。
基本的な料理の動作をテキパキとこなしていく静雄に、臨也は自然とだらしない顔になった。

「……何ニヤついてんだよ、気持ち悪ぃ」
「いや、シズちゃんお嫁さんみたいだなぁって。俺の」

その言葉が出た瞬間、静雄の顔は林檎のように真っ赤になった。
あ、美味しそう。臨也は無意識に腕を伸ばしていた。
その熱くなった頬に冷たい手で触れて、視線を絡ませる。静雄の頬は時間に比例するように熱くなっていった。

「シズちゃん、熱い」
「…手前のせいだろ、馬鹿」

ぐつぐつと煮え立つ鍋も気にせず、臨也は静雄を抱き締めた。


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