※動物パロ








ここは池袋も新宿も関係ない、ただの森。さあ、動物たちの生活を覗いてみましょう!



やあ、俺は素敵で無敵な情報屋、折原臨也。そして俺は列記とした兎さんだよ、あはは!
……正直、俺もこんな種族には生まれたくなかったんだよね。ほら、兎ってどうあがいても肉食動物には勝てないじゃん?肉体的に。
だから肉食動物が現れたら、俺が体を使って聞き出した相手の情報や弱みを駆使して、相手を騙さなければならない。
それが非常に面倒くさいんだよね。これだから立場の弱い草食動物は嫌だ、嫌だ。
はぁ、と溜め息を吐きながら、いつもの真っ黒なコートを羽織って耳をフードで隠して、散歩という名の情報収集をしていた。

「ちょっと臨也!相談したいことがあるんだけど!」

そう言って俺の目の前に突如として現れたのは隣の牧場で暮らす新羅。ちなみに彼は羊。
彼が俺に頼みごとをしてくるときは、大抵面倒なことだから避けておく。
だが今回は、そうもいかないようで。

「報酬はいくらでもあげるからさ、ね、お願いだから!」
「………あーもう、何?」

報酬、そう聞いて俺の心は揺らいでしまった。結果的に新羅の頼みごとを引き受けることになる。
新羅はありがとう、と言って俺の手を握ってきた。涙ぐんで。
そんなに嫌なことなのかな。だったら余計に面倒そう。数秒前の自分に酷く後悔した。

「それでさ、依頼内容のことなんだけど……」




新羅によると、そろそろ来るらしい。
俺は色々と情報を仕入れて、ナイフやら催涙スプレーやら筋弛緩剤やら、物騒なものを構えて待っていた。

新羅から任されたのは狼の退治だった。
只、その狼は普通の狼とは違う特殊な肉体を持っていて、何でも傷をつけたのに治癒能力が高く、それでいて体も強靭だから何をしても傷がつかないらしい。
だからその狼は喧嘩に負けたことがなく、今まで誰とも仲良くできなかったらしい。
ここまでは俺が様々なルートとコネを使って集めた情報。それで、俺は考えたわけ。
内面からなら、傷つくんじゃないのかな、って。
だからあらゆる薬という名の薬を集め、新羅に特別に調合させて、臨也くんスペシャルフレーバーを作ったのが少し前のこと。
そして、新羅から言われたのは二つの忠告。
一つ、殺されないこと。
まぁそりゃあね、ここら辺の狼の中じゃ一番強いらしいから気をつけないと。
二つ、殺さないこと。
これには正直驚いた。退治してほしいのに殺すなとはどういうことなんだ。そう文句を言うと、何でも新羅の彼女の妖精さんがその狼と唯一の友達なんだとか。この弱肉強食世界に私情を挟むなんて、本当新羅ったら甘いよ。
ま、俺は依頼人の望みを叶えるだけだから、どうでもいいんだけど。
おっと、そんなことを言ってたら来たみたいだ。

「あ?……兎だけか…」

金髪にサングラスにバーテン服。長身で頭には茶色い耳。いかにも悪い感じの印象を受けるタイプ。
何だか予想にハマりすぎてつまらないなーと思っていたら、長身の狼が目の前に立っていた。
何となく笑顔で見つめてみると、向こうの顔が驚いたものに変わる。

「………怖がらねぇ、のか?」

青い硝子越しに見つめた瞳は驚きの色をして、その中には少し喜びも含まれていたような気がした。
ああ、そういえば孤独だって言ってたなー。曖昧な記憶が過って、目の前の狼に視線を移す。
確かに、この容姿では誰も近寄ってこないだろう。長身にガラの悪そうな金髪にサングラス、どこからどう見てもヤのつく自由業の下っ端みたいだ。
けれどその容姿とは反して、心は意外と優しいのだと思う。まず、被食者である兎に対して普通はこんなことを聞かない。
普通なら食ってもおかしくない俺を、珍しいものを見るように見ている。
とりあえず性格を探る為に、少し話をすることにした。

「驚かないよ。狼も、熊だって何回も見てきたからね」
「そうじゃなくて、この格好見て……」
「俺はそんなことじゃ驚かないよ。こんな格好してるのはいくらでもいるし、内面の方が大事でしょ?」

そうやって貼り付けた笑顔で言うと、相手はふわりと笑う。
きゅんっ。
…え、ちょっと待って何さっきの、きゅんって。ちょっと待て俺、まさか、狼に心奪われた…!?
自分の感情に戸惑って目の前の狼を見ると、恥ずかしそうにはにかんでいる。
……いや、可愛いとか思ってないよ、可愛いとか思ってな………。
そうだよ、可愛いと思っちゃったよ不覚にも!何、悪い!?そりゃあさ、女ならまだしも男の狼を好きだなんて……。
まぁ否定はしないけどね。

「そうだ、俺が君と仲良くしてあげるよ!」

勿論下心付きでね、と心の中だけで呟いて、両手を広げて笑って見せた。相手は実に嬉しそうな表情をして、すぐに顔を歪める。

「え?で、でも、俺狼だし……」
「仲良くなるのに種類なんて関係あるのかな?俺は関係ないと思うよ」
「でも、俺腹減ったらお前のこと食っちまうかもしれねぇんだぞ?」
「ああ、大丈夫大丈夫。今まで狼やら熊やらから何回も逃げてきたし、それに食べられる前に食べるから」

俺の言葉の意味がわからないのか、不思議そうに首を傾げる相手を可愛いとか思いながらも、自然と緩んでしまう頬を引き締めた。
俺は一度自覚したらそのまま突っ走るタイプのようで、現に俺は目の前の狼にゾッコンだ。
いや、もう狼っていうよりかは俺みたいな兎の方が似合うのかも。うん、似合う。

「あ、そういえば君の名前は?」
「え?……平和島静雄」

静雄、静雄……シズちゃん!そうだ、シズちゃんにしよう、可愛いし。
それにしても何て容姿に合わない名前なんだろう。最初聞いたときはそう思った。けどこんな名前なのも仕方ないよね、こんなに可愛いんだから!
……あれ、俺今までで可愛いって何回言ったんだろう。好きになったものは一度嵌まったら抜け出せないっていうのは本当なんだね。

「お前の、名前は?」
「ん?俺は折原臨也。素敵で無敵な………おっと」

危ない危ない、素性がバレるところだった。
恐る恐るシズちゃんの表情を見ると、よくわからなさそうな表情をしていたから大丈夫なはず。
情報屋してるってことがバレちゃったら色々と都合が悪いからね。何よりも俺のイメージが悪くなっちゃう。
あくまでも笑顔で話していると、シズちゃんの笑顔が次第に増えてきた。

「ところでよ、臨也……その、シズちゃんって呼び方、やめろよ」

恥ずかしいし、女みたいだから嫌だ、と顔を少し赤くしたシズちゃんに告げられて。
心の中で可愛いと何度も呟いた。あ、勿論呼び方を変えるつもりはないよ。

「えー。だってそっちの方が可愛いじゃん」
「か、可愛い、とか……!俺、男だし可愛いとか言われても嬉しくないし。そういうのは女に言えよ…」

もごもごと口籠らせながら言うシズちゃんに……うん、下品だってことはわかってるけど勃っちゃった。
仕方ないよ、そんな顔しながら言うシズちゃんが悪いんだから。
兎が狼を食べてもおかしくないよね、物理的に食欲的に食べるわけじゃないし、性欲的だし。
心の中でそう決めて、コートの中に忍ばせておいた臨也くんスペシャルフレーバーが入った注射器をこっそりと取り出す。
この注射器の中身は、筋弛緩剤とか媚薬とかその他諸々な兎に角、シズちゃんが並の体なら効き目が十分にありすぎるぐらいの量の薬。
まずはシズちゃんの体の強度を確かめる為に、左手で折りたたみナイフを構えておく。
すっかり無防備な状態になったシズちゃんの脇腹目掛けて、結構な力を入れてナイフで一直線に肌を切る。

「っ……!?」

うわーさっすが。結構力入れたのにちょっとしか切れてない。
シズちゃんはやっと信用できた相手に体を傷つけられて、ショックと同時に悲しみや怒り、いろんな感情が混ざっているような表情をしていた。
そんな表情をしてもこれからの結末に変わりはないんだけど。
俺はその傷口目掛けて、少し太くした針のついた注射器をぶすっと刺す。あ、刺さった。そのまま薬を少しずつ注入。

「ぁ……!?な、なに……」

いきなりの出来事に頭がついていかないんだろう、サングラスの奥の瞳はゆらゆらと怯えた色を示している。
薬とか、使われるの初めてなのかな。うーん、この様子からすると初めてか…。
まぁ、こんな物騒なもの使って仕事するのは、俺と動物医ぐらいだしね。
中身を全て出し終えると、空になった注射器を引き抜き、その注射器はそこら辺に捨てた。

「臨也っ、手前……俺を騙し…あっ!?」
「わーお、さすが即効性」

俺を睨みつけていた目は、すぐに戸惑いに変わる。
シズちゃんの脚は膝から崩れ落ち、そのままへたりと座り込んだ。上半身を支えている腕さえも震えていて、今にも崩れ落ちそう。
多量の筋弛緩剤を入れただけあったね、すっごく効いてる。1時間前の俺、GJ。

「手前っ……俺を嵌めて、殺すつもりか……っ、は」
「嵌める?……まぁ嵌めたっていうのかな?でも、俺は君を騙してない。嵌めて殺そうとも思ってない」
「じゃあ、何がしてぇん、だ………っ!」
「君を愛したい。愛して、俺なしじゃ生きられないぐらいに。だから、今から食べてあげるね?」

その言葉と同時に茶色い耳をゆっくり撫でると、その耳と共にシズちゃんの身体がビクリと強張った。
食べる。その言葉を聞いて怖くなったんだろう。こんな状態の自分なら、すぐに食べられてしまう、と。
草食動物が肉食動物を物理的な意味で食べられるわけないのに、馬鹿だなぁ。
でもそんなところも可愛い、と若干変なことも思いつつ、俺はシズちゃんの割と軽い体を抱きあげた。
シズちゃんは俺を怒りと戸惑いと怯えの目で睨みつけてる。これからもっと酷いことするのに、そう思って少し胸が痛んだ。
俺がこんなこと思って胸を痛めるなんて、珍しいこともあるんだね。そう自嘲気味に笑って、俺は物陰に向かって歩き出した。





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