「で、何で俺の教科だけ赤点ギリギリなんだよ」
「何のことでしょう?」

図書室で、静雄と臨也は互いに向かいの席に座っていた。
静雄は身を乗り出して睨むように臨也を見つめ、臨也は頬杖をついて読めない笑顔を浮かべている。
何がそんなに楽しいのか、静雄にはそれがわからなかった。
既に陽は傾いていて、放課後の図書室に朱が差す。
何も答えずにただはぐらかすだけの臨也に、静雄は溜め息を吐いた。

「入試の成績も、その後の入学テストの成績も首位らしいじゃねぇか」
「只単に、勉強していないから成績が落ちた、そういうことだと思いますけど」
「急に落ちるわけねぇだろ」

軽くツッコミを入れると、臨也はおどけたように笑った。
静雄はそれに小さく舌打ちをして胸のポケットに入れてある煙草を取り出す。

「先生、図書室で煙草は駄目ですよ」

臨也は静雄の口に銜えられた煙草に手をのばして取った。
その煙草はそのまま臨也のポケットに入れられる。
静雄はその行動に眉間に皺を寄せた。

「…おい、それどうするつもりなんだよ。まさか吸うんじゃねぇだろうな?」
「……まさか、ちゃんと捨てますよ。俺高校生ですし」

そういう問題ではないのだが、と言いたいところを静雄は黙って呑み込んだ。
そのまま、臨也が発した言葉が最後となって沈黙が二人を包む。
窓の外から生徒たちが部活動に励む声が聞こえてきて、静雄はぼんやりと自分の高校時代を思い出していた。
特に、何も思い入れがなかった、と思う。
学校行事にも精力的に参加していたし、勉学もそれなりに励んでいたが、どうにも一生懸命にはなれなかった。
楽しかったとは思うが、格段頭に残っている出来事は少ない。
目の前の自分の生徒はどうなんだろう、と思って静雄が臨也に目を向けると、真っ赤な瞳がじっとこちらを窺っていた。

「……何だよ」
「平和島先生って、綺麗ですよね」
「……はぁ!?」

臨也の言った言葉を理解するのに少々時間がかかってしまった静雄は、少しの時差を置いて驚く。
いきなり立ち上がったことでバランスを崩した椅子は、ガタリと大きな音を立てて倒れた。
いつもの眉間に皺を寄せた顔は崩れ、顔を真っ赤にさせてパクパクと口を動かしている。
その様子に誰よりも驚いたのは、静雄がこんな状態になる要因をつくった臨也だった。
目を丸くさせた臨也はすぐさまいつもの表情に戻り、まだ顔を真っ赤にさせた静雄をじっと見つめる。
静雄も徐々に落ち着きを取り戻していき、椅子を直して座った。
まだ顔は真っ赤なままだったが。

「先生って、そういうこと言われたことないんですか?」
「彼女とかいなかったし、それにあんな風に……いや、何でもねぇ。からかうんなら別の奴にしろ」

赤くなった顔を隠すように窓の方を向いた静雄の顔は、夕日のせいでより赤く見えた。
臨也はさっきの出来事に気分を良くして、未だに赤いままの静雄の顔を見つめる。
本当に、綺麗だ。
夕日に赤く染まった静雄の整った顔を見て、臨也はそっと思った。

入学式当日、つまらない中学校生活を終えてまたつまらない高校生活を送るんだろうな、と内心で悪態を吐いていた臨也は驚いた。
金に染まった髪、ヘーゼルの瞳、端整な顔立ちもスラリとした体形もその周りの目を気にしないような風体も、全てが臨也のお気に入りになった。
面白い、やっと見つけた。
それから英語担当の教師があの教師だということがわかって、初日だけ真面目に受けて、あとはてきとうに過ごした。
テストも英語だけ赤点ギリギリをとった。
その結果、静雄の眼中に入った臨也は、自分の思惑通りにいきすぎて思わず笑みが零れるほどだった。
この呼びだしも、どれだけ待っていたことか。
臨也はその貼り付けた笑みで、この男がどんな男なのか、徐々に暴いていってやろうと密かに考えていた。

「でも、さっき言ったことは嘘じゃありませんよ」
「…は?」

静雄は耳を疑って聞き返す。
放課後の喧騒から臨也に視線を変えた。

「嘘じゃない、と言ってるんです。からかってません」
「何言ってんだよ」

机を乗り越え、臨也は静雄との距離を詰める。
静雄が後ろに下がると、後ろにあった机に背が当たり行き詰ってしまう。
臨也は真摯な眼差しのまま、じっと静雄だけを見つめて静雄を追い詰めた。
身体的にも、心理的にも。

「綺麗です。平和島先生、あなたは綺麗だ」
「お前、本当に何言って…」
「綺麗、そう言ってるんです」

静雄の質問にも淡々と答えていく臨也に、静雄は意味がわからなくなった。
突然言われた言葉に、突然迫ってくる生徒。
頭の中で整理しようにも、次々と迫りくる事態に静雄の頭はついていかなかった。
臨也の手が、静雄の後頭部に回される。

「好きです、先生」

迷いもなく告げられた言葉と共に、臨也は唇を重ねた。








あ、駄目だこれ。
やっぱり第三者視点は苦手だということが発覚←
難しいですね、はい(´・ω・)

ちなみにシズちゃんが英語教師なのは、シズちゃんが英語喋れたらかっこいいし可愛いなーという私の妄想からです(笑)
臨也は女癖が悪い優等生だと思うんですよね←
続きは…………書くかどうか迷い中です…(´;ω;`)


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