「だ、めだ……もぉ、ほんと、あ!」

太腿がビクビクと引き攣って、喉の奥が嗄れそうなぐらい渇いて、一気に唾液を飲み込んだ。
自然と目が潤んで、男の白衣を掴んでしまう。
縋るように男の赤い瞳を見ると、男は一瞬目を丸くさせて、熱の混じった吐息を吐いた。
自分でも気持ち悪いとわかっていながらも、俺がこの状況から逃れると考えた術はこれしかなかった。

「そんな目で見られても、やめてあげることはできないけどね」
「え、あ、やぁ……もっ、ああぁ!」

男に絶望的な一言を言われ、手の動きを速められた。
急な刺激に背筋が仰け反って、瞼の裏がチカチカと光ったような感覚。
同時に、意識が飛ぶような感じがして、何かが放出されたような気がした。
その一瞬の出来事に脱力する。

「ふ、はぁ……」

体を白いシーツに埋めて、息を整える。
一体何が起こったのかはわからないけれど、頭の中が熱いのと、脳が浮遊したような感じでどうでもよくなっていた。
瞼が唐突に重くなって瞼を下ろそうとすると、信じられない場所に違和感。

「え、な……!?」
「あー、この感じは初めてかな?」

尻に違和感を感じる。
腹の中を何かが動く感触が妙に気持ち悪い。
男の指だということはわかった、けどどうして、何のためにしているのかが全くわからない。
そんな俺にはお構いなく、どんどんと指を進め、挙句の果てには本数を増やしてくる男に、怒りを通り越えて混乱した。
ぐちゅぐちゅと部屋に響く音が嫌で、聞こえないふりをして目を閉じた。

「うぐ、っく…っあ!?」
「みーっけた」
「ひぁ、な、なに、あぁ!」

気持ち悪さに耐えていたら、不意に頭が真っ白になって背筋がしなった。
何だこれは、と考える間もなく、目の前の男が笑みを浮かべてその感覚ばかり引き出す。
もう駄目だ。頭が真っ白になって何も考えられない。これだけ思考がついていかないなんて。
このまま意識が飛んで俺は死んでしまうのだろうか、ただ引き攣った声しか出ない中で男の顔を見ながら思った。
男は相変わらず読めない笑みを浮かべていた。

「そろそろいいかな。君も堕ちてきているようだし」

男の言っていることの意味がほとんど理解できなかったが、面倒だったから理解しないことにした。
変な水音がして腹から圧迫感がなくなる。
指を引き抜かれたんだ、と安心した直後、熱い何かが宛がわれた。
……何だ、これは。

「今から注射、してあげるからね」
「は?注射って……っあ゛あぁぁ!」

意味のわからない単語に疑問符を浮かべたのも束の間、下半身からとてつもない圧迫感。
いつの間にか男はスラックスを脱いでいたようで、男の生々しいソレが俺の目にうつっていた。
意識が朦朧としている中で必死に首を横に振って痛みと圧迫感を逃がそうとしても、その感覚は迫ってくるばかり。
わからない。目の前で起きている出来事も、この行為の意味も。
この行為自体は知っているけれど、今俺がされていること自体に果たして意味があるのか。
目の前の男の真意を探ろうとしても、今の俺の状況では絶対的には無理。

「はぁ…全部、入った」
「え…?う、うそ……」
「嘘じゃないよ。ねぇ、俺さ、君に惚れちゃったみたいなんだよね」

荒い息の中、男が淡々と紡ぎ出した言葉に俺は耳を疑った。
本当に嘘だと思った、いや、嘘であってほしかった。
俺に、惚れた……?
男が、男に、しかもこんな化け物じみた肉体をもった俺に。
あはは、と笑いながら言う男には真意が感じられず、やはり嘘かと溜め息を吐く。

「嘘だと思う?そりゃあそうだよね、たまたまここに来た君がたまたまそこの医者に恋をされるなんて。でもね、残念ながら本当なんだよ」
「は?手前、何言って」
「臨也。俺の名前は折原臨也、だよ」

さっきよりも真摯な瞳で見つめられ、俺は一瞬その赤に吸い込まれそうになった。
この男が、俺に。
何回も何回もその言葉を頭の中で繰り返させて、繰り返させて、やっと出た言葉は。

「いざ、や…」

男の名前だった。
男は満足したように笑んで、俺の頬を慈しむように撫でる。
人にこんなに優しく撫でられたのは何年ぶりだろう。
もう既に思考が蕩けてしまっている頭では何を考えようとしても無駄なのだろうけど。



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