※折原さんがセクハラっぽいです





「次の人、どうぞー」

高価そうな病院の茶色い皮張りのソファに座っていた俺は、その掛け声と同時に立ちあがった。

俺みたいな奴が病院に来るなんておかしいと、自分自身でも自覚はしている。
それでも体の中からじわじわと侵食してくる病魔には、この体を以てしても勝てなかった。




――― 数時間前。

朝起きると、体に違和感を感じた。
頭だって覚醒したばかりなのにクラクラするし、喉だって引き攣るように痛い。
使うはずないと思っていた体温計で熱を計ってみると、38度6分という高熱。
放っておけば治るだろうと思っていたのだが、何分眠っても頭の痛みは治ってくれなくて、どうすればいいかわからなくなった。
とりあえずあの闇医者と仲がいい、親友でもあるセルティにテレビ電話をした。

「せ、る゛てぃ……」
『どうしたんだ!?声も嗄れてるし、顔もやつれてるぞ!』

起きてから初めて声を出してみると、自分が思ったよりも酷いことになっていて驚いた。
2つの液晶越しに伝えられるメッセージには、心に温かいものを感じた。
セルティは家にいるようでいつものヘルメットはなくなっていた。

『でも、どうしよう…今新羅は用ができたとか言って出かけていったんだ……』
「それは、どうでもいいけど…こういうばあい、ごほっ、どうすれば…?」
『医者に診てもらわなきゃ駄目だろう!』

それからセルティに熱が出た時の対処法とか、薬の飲み方とかを教えてもらって、とにかく医者に診てもらえ!と念を押された。
とはいっても俺は滅多に病院なんか行かないわけだから、病院の場所なんて知る筈もなく。
セルティに教えてもらおうと思ったが、一回切ってしまった電話を再びかけるのも駄目だと思ってやめた。
とりあえずてきとうに近くにある病院を携帯で探した。

「おり、はら…」

何故かその名前に目が止まってしまい、その病院に行くことにした。
しかも自宅からわずか数分の場所にあるから好都合だ。
俺はマスクをつけて、財布も持ってでかけた。




そして名前を呼ばれて三秒、俺は今診察室のドアの前。
ドアノブを回してドアを開けると、そこにいたのは胡散臭そうな眼鏡をかけた黒髪の男。
肘掛け付きの椅子に座って微笑を浮かべている。
俺からの印象は一瞬にして悪いものになった。
何だか、こいつは気に入らねぇ。

「どうぞ?」

椅子を手で示して促される。
その言葉に従うのはどこか癪だったが、一応病院なので怒りを抑えて座った。

「平和島、静雄さん?何だか可愛らしい名前ですね。熱はどのくらいありましたか?」
「……38度、6分」

どこか馬鹿にされたような気がして、危うくキレそうになった。
拳を握りしめて耐える。
微笑を貼り付けていた目の前の医者らしき男が、急に真剣な顔つきになった。
よく見ると端整な顔立ちをしていて、こういうのが女にモテるんだろうな、とぼんやり考えていた。

「口、開けてくれるかな?」

いきなり敬語がとれた相手に驚きながらも、俺はマスクを取って大きく口を開けた。
右手に金属、左手にライトを持った医者に口の中を診られる。
視線が痛く突き刺さって、居た堪れない気持ちになった。

「うーん…喉が腫れてるね…」

そうやって俺の口内を見ながら呟いて、もういいよと声をかけてまた机に向き直った。
カリカリとカルテに文字を書いている音が聞こえる。
男は頬杖をついて、うーんと唸りだした。

「喉も腫れてるし、熱もあるし、明らかに風邪なんだけど……どうして体が痩せてないのかな?」
「え?」
「確かに顔色は悪く、やつれているように見える。けど、ほっぺたにちゃんと肉はついてるし、体だって余すところなく筋肉がついてる」

俺の体を見ただけでそれだけのことがわかるのか。
何だかずっと見られていたのだと思うと居た堪れなくなった。

「俺は君の体に興味があるんだけど」

またあの微笑みにじっと見据えられる。
興味がある、と言われても、どう対応していいかわからなかった。
見ず知らずの人に興味があると言われたのは…まぁ初めてはないけど。
キャスター付きの椅子がこちらへと移動してくる。

「それじゃあ、シャツ、脱いでくれる?」





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