その3:シズちゃんを思いっきり拒絶してみる。

シズちゃんが俺の腕を軽い力で掴んだから、その腕を思いっきり払った。
そしてできるだけ冷たい眼差しで睨んだら、シズちゃんが眉間に皺を寄せた。

「触んないでよ、化け物」

それだけを言い放って立ち去ろうと歩みを進めた。
気付けば周りに人はいなくて、結構狭い道に来てしまっていた。
道に迷ったかな、と思ったけど、まぁこのまま進めば大通りに出れるかな、池袋はどこでも繋がってるようなものだし。
そういうことにしておいて、後ろを振り返らずに立ち去ることにした。

うん、実験方法はこれぐらいでいいか。
あとは結果を待つのみ。
まぁどうせキレて終わりだろうけど。
「誰が化け物だ、ノミ蟲いいぃ!」とか言いながら色んな物投げられるんだろうなーとか思ってたら、不意にコートの裾を掴まれた。
・・・まだ実験しなきゃ駄目かな、うん。

「ちょっと、まだ何、か・・・」
「・・・・・・・・・」

シズちゃんの顔を見て驚愕。
シズちゃんのサングラスで覆われている両の瞳からは、ぼろぼろと大粒の涙が零れ続けている。
しかも俺を見つめて止まったまま。
俺のコートの裾をぎゅっと掴んだまま。

「え?し、シズちゃん?」
「・・・・・・・・・」

ぼろぼろと無言で涙を流し続けるシズちゃんに俺の方が混乱した。
その表情は、何か信じられないものを見た、というような感じで、そのまま涙を流している。
そして数十秒したところで俺のコートから手を離し、へなへなと何かが崩れたようにうずくまった。
今度は背中を小さく揺らして、しゃっくりをしながら泣いている。

「いっ、ざやぁ・・・ごめ・・・っ」
「へ?」

シズちゃんはしゃがみ込んだまま顔を少し上げて、両手で一生懸命に涙を拭っている。
それでも次々と涙が溢れ出てくるようで、余程俺の言葉が辛かったんだなぁと少し他人事のように思ってしまう。

「お、俺っ、もっ・・・さわ、たり、しなっ、から・・・ひぐっ」

ちょっと待って。
何この可愛さ、いつものシズちゃんも可愛いけど、それよりも数倍可愛い。
というか泣いてるシズちゃんが見られるなんて!
・・・俺Sじゃないからね、どちらかというとMの方だから、シズちゃん虐めて楽しむとかそういう性癖無いから。

俺もしゃがみこんでシズちゃんと目線を合わせてから、その金の髪をゆっくりと撫でる。
シズちゃんは驚いて尻もちついて後退したみたいだけど、追い詰めて追い詰めて壁際まで追い詰めると、また涙の量が増えた。
またゆっくりとシズちゃんの肩に触れると、大袈裟な程にビクリと身体を揺らした。

「いざ、や・・・」
「んー?」

それからシズちゃんのこめかみ、目尻、頬、唇、と親指でなぞっていくと、シズちゃんが小さく肩を震わせる。
未だに涙は止まっていなくて、親指が涙で濡れた。
ふと気がつくと、シズちゃんの手が俺のコートを握ろうと、とてもゆっくりしたスピードで伸びていた。
それを軽く叩いて、阻止する。

「だーめ。シズちゃんは化け物なんだから、人間の俺に触っちゃ駄目でしょ?」
「うっ・・・ふぅ、う・・・」

否、さっきも言ったけどそういう性癖は無いからね、ここ重要。
俺が笑顔でそう言うと、シズちゃんは拳を握りしめて、涙の量をより一層多くさせた。
そんなシズちゃんが愛しくて思いっきり抱きしめた。
シズちゃんは戸惑っているようで、自分の手を俺の背に回そうとしたり、やめたりで結局自分のシャツを握っていた。
俺の肩に頭を乗せることさえしていないシズちゃんは、そういうとこだけ従順すぎて可愛い。



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