目が覚めた。
外からは小鳥の囀り、カーテンの隙間からは陽の光。
いつもと同じように朝がきた。
隣を見ると、必ずある温もり。
でも、頬には乾いた涙の跡があって、俺は寝ながら涙を流していたんだと実感させられる。

「・・・シズちゃん」

俺は上半身を起こし、頭を慈しむように撫でてじっと見つめた。
シズちゃんを見てると徐々に目頭が熱くなってきて、また涙が溢れてきそうになる。
俺が死んでしまったら、シズちゃんは何て言うんだろうか。
一緒に涙を流して悲しんでくれる?鼻で嘲笑って立ち去る?
そんなことを考えていると、止められるものも止められなくて、ついに涙が目尻から落ちた。
一滴溢すと、もう止まらなくなって、次から次へと零れてくる。
顎を伝った涙が、落ちた。

「・・・いざや?」

不意に下から声がして、見るとシズちゃんが目を覚ましていた。
シズちゃんの頬には俺の零した涙が伝っている。
額に手を当てて、目元を隠すように俯いた。
数秒すると、シズちゃんが少し慌てたような口調で話しだす。

「い、いざっ!手前、泣いて・・・!?」

どうした、とか俺にシズちゃんがかけるような言葉じゃないような言葉がどんどん羅列されて、思わず笑いそうになった。
否、もうこの際笑ってしまおう。
そっちの方が泣いてるよりは気が楽だし、何より泣くなんて俺らしくない。

「あ、ははっ」
「何笑ってんだよ、手前・・・」
「だって笑った方がいいでしょ?泣いて泣いて、ただ同情してくれるような人を待ってるなんてさ、馬鹿げてる」

嗤いながら泣く。
シズちゃんはどんな顔で俺を見てるんだろうか、きっと変な目で見てるんだろう。
いっそのこと俺を罵ればいい。
そっちの方が同情されるよりかは楽だし。

「臨也・・・お前・・・」

途端に、何か温かいものに包まれた。
確認するために顔を上げてみると、目の前にはシズちゃんの首筋。
俺の背にはシズちゃんの腕、俺の真横にはシズちゃんの顔。
俺は、抱きしめられてる?

「やめてよ」
「嫌だ、泣いてる奴なんてほっとけねぇ」

何そのくだらない理由。
俺はこの感情が嫌なんだ、シズちゃんみたいな人にすぐ同情してすぐ弱みにつけ込まれる人の感情。
けど離そうとしても、もの凄い力で抱きしめてるから離れない。
それに、この温もりが俺の涙を促進させる。

「何が、あったんだよ」
「・・・俺が、死ぬ夢を見た。それで怖くなった」

ほら、笑いなよ。
俺が、この俺が死ぬのが怖いって言ってるんだからさ。
いつも池袋で俺を笑うみたいに、笑いなよ。
そう思ってるのにシズちゃんは、慈悲深い天使のような笑みを見せて。

「自分が死ぬ夢、か・・・辛いだろうな・・・」
「シズちゃんは死なないくせに?」

俺が皮肉にそう言うと、シズちゃんは顔を歪めた。

「でも、俺だっていつ死ぬかわからない。どうやったら死ぬのか。何をされたら死ぬのか。だから怖い」

ポツポツと語り出したシズちゃんの身体は震えていた。
本当に、死ぬのが怖いんだ。

「俺の身体の筋肉が限界を越して、直死ぬのかもしれない」
「そんなことになったら俺が許さないから」

シズちゃんは屈託のない笑顔で笑って、

「だから皆、死ぬのは怖いんだよ。臨也だけじゃない、俺だって」

そんな顔で言うんだから、俺は何も言えないよ。
俺は抵抗することを諦めて、涙腺を崩壊させた。
真横からもすすり泣く声が聞こえてきたから、シズちゃんも泣いていると初めてわかった。
お互いがお互いの頭を撫でながら、声が嗄れるまで、涙が涸れるまで泣き続けた。

「シズちゃん、ありがとう」

泣きながら、声が嗄れる前に呟いた。


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