「シズちゃんラアアアブ!愛してる!」
「うっせえ、くんなノミ蟲!」

どうしてこうなった、と言いたいほど今の俺たちの関係はおかしかった。
ちょうど一カ月前ぐらいからだ。

(俺ってシズちゃんのこと、ずっと好きだったんだよ?勿論、今も)

思い出したら、何故か顔が熱くなる。
初めはからかわれているだけだと思っていたのに、これが一カ月も続くと流石に信じなくてはならないような気がしてくる。
でも、信じたところで何が変わるんだろうか。
そう思っていた俺の心も少しずつ変わり始めた。
その変化が怖くて、今日も天敵から逃げる、逃げる。

「好き、なんてっ、嘘、だろ!」
「だから、嘘じゃないって、言ってるっ、でしょ!」

走りながら言葉を発しているから、お互い息が切れる。
力があるのは俺だけど、体力や脚力があるのは臨也だ。
だからすぐに体力が尽きてしまう俺は、簡単に臨也に捕まってしまうわけで。
どこかの建物の裏、腕を掴まれて引っ張られた。
倒れる、そう感じて体を強張らせても背中に硬い感触はなかった。

「はぁ……本当、じゃじゃ馬…」
「てっ、手前、何して、ッ……はな、せ!」
「やだ、絶対離さない」

絶対離さない。甘い声音でそう囁かれて、顔が熱くなる。
腰と胸に回る腕が酷く熱く感じた。
嫌だ、やめろ、離せ、何度そう言っても、静かな息遣いが耳元から聞こえるだけだった。
駄目だ、こんなことされたら壊れちまいそうだ。自我が、心臓が音を立てて崩れそうで。
耳に直接吹きこまれてくる息のせいで体が震えた。

「シズちゃんは……俺のこと、好きじゃない?」

いつもより掠れた低い声で呟かれたせいか、耳に熱が集中してるみたいだ。
それで、臨也の言葉を理解するのに時間を要した。
好き?俺が、臨也を。
好きか、と問われればよくわからない。でも、何となく臨也が来ない日があると不安にはなる。
でも、でも、それは臨也が来ないからじゃなくて、日常が崩れると不安になるような感じの現象だって信じてて。
それでも、心臓はずっと煩い。

「答えろ、臨也」
「ん?いいよ、何でも答えてあげる」

「お前に会うと、心臓がバクバクうるせえんだ」
「うん」
「お前が来ない日があると、何でか不安になるんだ」
「うん」
「お前とこうやって密着してるだけで、顔が凄く熱くなるんだ」
「うん」
「それで、息が詰まりそうで、胸が苦しくて、泣きそうになるんだ……」
「うん」
「これって、お前のこと…好き、なのか?」

問う声が震える。怖い、顔を見て視線を合わせるのが怖い。
触れ合う背中がやけに熱くて、恥ずかしさで身体中が何だか熱い。
好き、だと自覚したことはなかった。その前に、好きという心理がわからない。
何が好きで、何が愛してるなのかがわからない。
だから、好きだと言われても愛してると言われても、実感が湧かないんだ。

「それだけじゃ情報不足、もっと教えてくれなきゃ。そうだな……例えば、」

ぐい、と音がするほどに後ろを向かされた。
首が痛い、などと思う暇もなく唇に温かい感触を感じる。
これ、何て言うんだっけ。意識がぼんやりとしていて、考えることさえ億劫だった。
それは一瞬で離れて、少しの息苦しさと胸に広がる温かい何かだけを残した。

「な、に」
「キス、されて嬉しかった?」

キス、そう聞いて頭が一気に覚醒した。
さっき何をされたか。そうだ、目の前の男にキスされたんだ。男に、しかも臨也に。
でも、不思議と嫌悪はなかった。寧ろ嬉しいぐらいだ。
どうしてこんな感情になったのかはわからなかったけれど、頭は明確な認識ができないようになっていて、その男の誘導されるままに口を開いた。

「……嬉しかった」

素直に言ったはずなのに、何故か臨也は目を丸くする。
その顔にこっちが恥ずかしくなって、後ろに向けていた顔を思わず前に戻した。
頭が沸騰してる。心臓もいつもより煩い。駄目だ、俺。
バクバクという心臓の音が、密着した背中からあいつに伝わらないかどうか不安だった。
すると、不意に耳元に吐息を感じて体が強張る。

「じゃあ、きっとシズちゃんは俺のことが好きなんだよ」
「そう、なのか?」
「うん、やっと…やっと、両想いになれた…」

その切実な思いを込めたような言葉の響きに、肩が跳ねた。
両想い、その言葉を聞いて急に恥ずかしくなる。
何だよ、何でそんな嬉しそうな感じで言うんだよ。期待、しちまうじゃねえか。

「俺さ、ずっと片想いだったんだよ?それも出逢った頃から八年間、ずっと」

抱き締める腕に余計力が込められて。その言葉は嘘には聞こえなかった。
それから臨也はべらべらと愛を語っていく。
でも、そんなのはどうでもよくて、抱き締めてくる腕を少し強めに握った。

「夢じゃ、ねえよな……」
「え?そんなの、こっちが聞きたいぐらいだよ。夢だったら自殺してるね」

物騒なことを言われて肩に重みがかかる。
目の端に臨也の顔が見えて、首の辺りに生温かい息がかかって、息が詰まった。
ち、近い。いや、キスしたときも近かったけど、そんなんじゃなくて近くにいる時間が長い。
背中は温かい、でも緊張して体は強張っていた。
こんなに人に優しくされてるのに緊張してしまうなんて、況してや臨也に。

「あは、シズちゃん体カチコチだよ?緊張してるんでしょ?かーわいい」
「っ!ばっ、し、しかたねえだろ…!」

くそ、こいつ何でわかんだよ。
赤くなった顔を隠すために俯いて顔を背けた。
すると、耳に温かい息を感じて、引き攣った変な声が出てしまう。

「そんなに緊張してるなら、どこかリラックスできるところに行こっか?」
「え?」
「例えば……俺の家、とか」




のじ様、30000キリ番リクエストありがとうございました!!
「臨→(←)静でシズちゃんが臨也を好きだと自覚してくっつくまで」
ということでしたが、自覚させられたですよねこれ(´・ω・)
何だかいつもと違う書き方をしてとても不安ですオドオド
こんな感じでよかったでしょうか……?
不満がある場合はまた書きなおしますので!!
最後に、日々stkしただいてありがとうございます^ω^
これからもよろしくお願いします!!


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