「駄目駄目駄目駄目駄目えええええええっ!」

いきなり少し高めの怒声が響いたかと思うと、背中から何かが衝突してきたような感覚。
あ、やべ、ぶつかる。

「うわっ…ぶ、っ」

ぶつかって転ぶ、と思って必死にブレーキをかけても体は止まってくれず、そのまま目の前の体に突っ込んだ。
ぐっと体に力を込めると、ぼふっと見当違いな音がして目を丸くさせる。
確かに目の前には体があった。でも、その体は驚くほど落ち着いていて。
顔を上げると、俺の頭と腰に手を添えて支えている日々也と目があった。その顔が端整で柔らかで顔に熱が集中してしまう。
日々也の顔をずっと見つめていると、不意に後ろから引っ張られた。

「駄目駄目、駄目だってば!俺の可愛い弟なんだから!」
「ちょっ…兄さんっ……」

そのまま後ろに倒れ込むようにして尻もちをついてしまう。
けどそんなことに驚く暇もなく腹に腕が回り、痛いぐらいに抱き締められた。
白いふわふわしたコートが見えて兄さんだと判断する。否、声でわかっていたけど。
でも何が起こっているのかまでは処理してくれなくて、目を何度も瞬きさせた。

「ていうかさっきから見てて鳥肌立ったんだけど!何そのクサい台詞!同じ顔が言ってると思うと寒くなる」
「いや、お前いっつもあんな感じ」
「違う、それはない断じてない!」

馬鹿みたいな痴話喧嘩を始めるマスターと静雄にやっぱり幸せを感じる。
羨ましいとは思わない。でも、ああいう幸せは欲しいとは思っていた。
本当に、俺は貪欲な機械だ。
はぁ、と溜め息を吐くと目の前に見慣れ過ぎた顔があった。

「うおっ」
「……………」

真顔。先程までの微笑はどこにいったんだ、といえるほどに真顔。
何をそんなに真剣に俺の顔を見つめているのだろう。
相変わらず兄さんの腕は腹に巻きついてるけど、その顔は津軽の方に向いている。
ぎゅっと拳を握って、顔ばかり真剣に見つめる日々也の目をじっと見つめた。
…やっぱ顔が熱い。

「日々也、何」
「貴女は本当に不器用です」

何を言い出すかと思えば完全に自分を貶した言葉。
さっきとは違った意味で顔が熱くなる。
不自然に顔が引き攣った。やっぱりこいつは癪に障る。
何か文句を言おうと口を開くと、勢いよく前方に引かれた。兄さんの腕がするりと離れて、替わりに腰に腕が添えられる。

「だから私にだけは甘えてくださいね?」
「っ……」

狡い、こんなの。顔が熱くてたまらない。
いきなり微笑んで、いきなり耳元で囁いて、いきなり抱き締めて。
恐る恐る背中に腕を回して服を掴んでみると、体が寄せられてより一層力をこめられた。
こんなの経験したことないし、データにも入ってない。
とりあえず多分真っ赤になっている顔を隠すために、その肩に顔を埋めると、今度は頭を撫でられた。

「日々也、恥ずか、しい……」
「ふふ、デリックは可愛いですね」

こんな不器用な男のどこが可愛いのかわからないけれど、言われた通りに甘えておくことにした。


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