「シズちゃん、何してるの」

この声は、このふざけた愛称で俺を呼ぶ男は。

「いざ、や・・・」

後ろを振り向くと臨也がいた。
服も乱れていて、瞳も熱を孕んでいて、何があったのか一目でわかるような格好で。
そんな格好のお前なんか見たくない。
そう心の中だけで呟いて、ただ臨也を睨んだ。

「お前こそ、こんなところで、何を・・・」
「何って、シズちゃんが見えたから。周り見ずに標識振り回してたから」

瞳と格好は熱っぽいのに、声は酷く冷めていた。
臨也のそんな声を聞いたのは初めてで、こんな熱っぽい顔を見るのも初めてだった。
俺以外には見せているのかもしれない、けど俺にはそんな顔決して見せなかった。
いつも余裕ぶった笑みで俺を翻弄させて、俺を見下して、俺を騙して。

「何で泣いてるの」
「・・・は?」

嘘だ、そう思って頬に指をあててみる。
その思いは無残にも裏切られ、指には水が付着していた。
確かに俺は泣いていた。
泣きながら標識を振り回していた。

「まさか君、無意識に泣いてたの?」

臨也が何か言ったような気がして顔を上げると、臨也の顔は酷く驚いた顔をしていた。
こんな顔を見たのも初めてだ。
俺以外の奴に、俺以外に見せる顔を見せて、俺には見せなくて、俺は知らなくて。
色んなことを考えていたら頭が爆発しそうだ。
涙腺が、決壊しそうだ。

「・・・泣いてねぇよ」
「嘘ばっかり」

臨也のその言葉が酷く矛盾してるように聞こえた。
否、矛盾している。

「どうしてそうやって嘘つくの。俺の前で強がって、他の人の前では素直に曝け出して。俺のことそんなに嫌い?」
「ッ、それは手前だろ!俺以外の奴には笑んだり、怒ったりしてるのに、なん、で、おれ、は・・・」

気がついたらまた涙が出て、止まらなくなっていた。
臨也にこんな姿見せるなんて恥ずかしくて死ねそうだ。
この場からすぐにでも逃げ出したい、その一心で俺は足を動かせた。
走り去ろうとしたら、不意に腕を掴まれた。

「待って」

この細い腕のどこからそんな力が出るのか、と思われるぐらい腕を掴まれた。
掴んでいた標識を奪われ、その辺に捨てられる。
それで、腕を引かれて、背中から臨也の胸に落ちた。
そのとき、俺を支えきれなかったのか、臨也も後ろに倒れた、と思ったら地面に胡坐を掻いて俺を受け止めていた。




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