「やぁシズちゃん。今日こそ血を吸わせてよね。」
臨也は吸血鬼だ。そのことは来神の時に聞いていたから今さら驚くべきことではない。セルティのようなデュラハンもいるし、吸血鬼の一人や二人居てもおかしくないだろう。だが問題は臨也が俺の血を吸おうとすることだ。
まだ出会って間もない頃、臨也にナイフで切りつけられ腕に赤く細い線が一本できた。それから一気に距離を詰められその血を赤い舌で舐められ、そして臨也は俺の血をえらく気に入ったらしく来神を卒業して数年経つ今でも求められる。
「テメェの信者とやらがいるだろ、そいつらの血を吸えよ。」
「んー、多少は吸わせてもらったことがあるけどさ…シズちゃんの血に勝る血はないし、それに……シズちゃんの身体ごと欲しいんだけどなぁ、俺。」
フードを被って紅い瞳を細める臨也は、一般人から見たら異形に見えるだろう。フード付きの服を着てもフードを被ることはあまりない。臨也は本物の吸血鬼だから昼には弱い。なのに昼に出掛けてでも俺に会いに来るなんて、よほど欲しいのだろう、俺の血が。
「気持ち悪いこと言うな。」
「本気なんだけどなぁ。」
臨也は普段、信者の血を吸わせてもらっている。定期的に血を摂取しないといけないらしい。
俺がこれほどまで吸血を恐れているのには理由はある。俺の血を初めて舐めた時、臨也が興奮して俺を押し倒し、俺は危うく掘られるところだったからだ。
血を舐めて強くなった奴を押し返すのはなかなか辛かった。きっと血を吸われ貧血状態になってしまったら奴を押し返すことができない。だから俺は奴を警戒している。
「……ふぅ、まあいいや。また貰いに来るよ…今日はちょっと元気ないし。」
すると、臨也が少しよろけた。俺は慌てて臨也の身体を支える。
「…大丈夫か?」
臨也は蒼白い顔を俺に見せてニコリと笑った後、俺から逃げるように走り去った。
本当に大丈夫なのだろうか。ほんの少しだけ、血をあげたら良かっただろうか。臨也が弱っている姿なんて初めて見た。
俺はしばらくの間、後悔の念に苛まれそこから一歩も動かずただ臨也が走って行った方をじっと見つめた。
仕事を終え、シャワーを浴びてベッドに横になる。ギシリとベッドが悲鳴をあげるのももう聞き慣れた。目を閉じれば俺の意識はすぐに落ちていった。
それから何時間経ったかわからないが、カーテンの隙間からは月の光しか入らない時間に俺は意識を戻した。いや、正確には戻さざるをえなかった。
全身から力が抜け、何か大切なものを持っていかれる。そんなよくわからない感覚が俺を襲ったのだ。
どうやら俺の上に人間が跨がっているらしい。まだ寝ぼけていてあまり回らない頭で処理できた情報は、月明かりに照らされたさらさらの黒髪、紅く妖しく光る瞳。
強盗?それともこの前俺を襲ってきた罪歌とかいう妖刀だろうか?
「…っ…しず、ちゃん…」
切羽詰まった声を聞いて俺の意識は一気に浮上した。強盗でもなければ妖刀でもない。この声はあの男のものだ。
「……いざ、や…?」
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