※サイケと津軽はアホの子設定




「クリスマスークリスマスー」

ツリーの前で三角座りをして笑顔を振りまいているのは、白いコートにピンクのヘッドフォンをしたサイケデリック臨也。通称サイケ。
可愛い笑顔を見せているが、キレると何とも腹黒な一面を見せるプログラムである。
そんなサイケは横にいる津軽の頭を撫でて、一緒にツリーを見上げていた。
津軽は着物の裾を手繰り寄せてサイケにくっついて、その頭をサイケの肩に乗せている。

「サンタさんくるかなぁ」
「…サイケ、いい子だから来るよ」

クリスマスにサンタが来て、いい子の枕元にプレゼントを残していく、というのも全てマスターである臨也が教えたことだ。
二人は、臨也が教えたことには忠実に従っていた。
最近は臨也の家に静雄もやってくるようになっていて、臨也が間違って教えたことを静雄が正してくれたりする。
そのことに、二人とも感謝していて、最近では臨也が教えたことは容易に信用しなくなっていた。
だが、サンタが来るというのは静雄にも教えてもらったことなので、二人は忠実にサンタが来るのを待っている。
何とも仄々した雰囲気でツリーを眺めていると、不意にインターホンが鳴り響いた。

「サンタさんかな!」

サイケは一直線に扉に走っていき、外の人物を確認せずに扉のロックを外した。
ガチャリ。扉が開く音がしてサイケは目を輝かせる。
津軽は後ろからもたもたと歩いて、サイケの背に隠れた。

「……サイケ?」

扉の外から現れたのは赤と白のコントラストが美しい白い髭を蓄えたおじいさん、ではなくバーテン服に金髪の平和島静雄であった。
静雄は目を丸くさせてドアを開けた本人を見ると、確認のために名前を小さく呼んでみる。
自分の望んでいた人物とはかけ離れた人物の訪れに、サイケは小さく溜め息を吐いた。

「サンタじゃなかった……」
「サンタ…?いや、今日は……何でもねえ。それよりサンタじゃねえけど、ケーキ持って来たぞ」

ぐったりと肩を下げて溜め息を吐いているサイケと、その背に隠れてわたわたと慌てている津軽を見て悲観的になった静雄は、手に持っていた小さな白い箱を差し出した。
その箱からは仄かな甘い香りがしてすぐに甘いものが入っているとわかる。
サイケは途端に目を輝かせて、その箱を静雄から受け取った。
そんなサイケの様子を見て、静雄は頬を緩ませる。

「用意してやるから食え」

静雄が小さくそう言うと、二人ははーいと手を挙げて箱を持ったまま、リビングへと走っていった。
ガチャガチャと金属同士が擦れ合う音が聞こえる。
少し不安を覚えた静雄は靴を履いたまま、リビングの方へと小走りで駆けていった。
静雄がリビングに着いた時、二人は箱を抱えたままナイフとフォークを取り出そうと引き出しを片っ端から開けていた。

「俺が用意する、っつただろ」

ケーキの箱を取り上げ、静雄はサイケと津軽を椅子に座らせた。
わくわくと会話を弾ませる二人に、静雄はまた自然と頬が緩む。
小さなホールケーキを切り分け、皿に乗せてからテーブルの上に置いた。フォークも置くと、一斉にいただきます、という大きな声を上げてケーキを美味しそうに食べ始める二人。

「静雄くん!これとっても美味しい!」
「美味しい…!ありがとう、静雄さん」

素直に顔を綻ばせてお礼の言葉を口にする二人に、静雄の顔も柔らかいものとなる。
その大きな手で二人の頭を撫でると、二人とも頬にクリームをつけたままふわりと笑った。

「クリーム、ついてるぞ」

そう言って静雄が頬についたクリームを取って、そのクリームをぺろりと舐める。
このケーキを買ってきてよかった、と心から思った。

「静雄くんって、お母さんみたいだね」

サイケが笑顔で呟いた言葉に、静雄は顔を真っ赤にさせる。
そ、そんなわけねえだろ、と照れたように言うと、津軽までそんなことを言いだした。
静雄は真っ赤に照れながらも、こういう温かな時間はいいものだ、と二人の笑顔を見ながら思う。
その時間の終焉が訪れたのもほんの数分後。

「シズちゃんただいま!愛しい愛しい旦那様のおかえりだよ!」

バタン、という大きな音とともに臨也が満面の笑みで声を張り上げた。
静雄はその大きな音に眉を顰める。
と同時に、臨也もその端整な顔を歪ませた。

「……何で先にケーキ食べてるの、二人とも。食べ物は摂らなくても生きていけるようにプログラミングしたはずなんだけど」
「俺が食わせたんだよ。……手前が遅かった、から」

臨也は拗ねたように唇を尖らせて文句を言う。
それに答えるように静雄が理由を言うと同時に、寂しそうにもう一つの理由を口にした。
その顔は泣きそうに歪められていて、臨也は今日が何日か思い出す。

「今日ってもう……」
「…12月27日」

今度拗ねたのは静雄の方だ。
静雄は12月24日からずっと臨也の家を訪問しては帰る、その繰り返しだった。それも毎日ケーキを持って。
そんな静雄の心境など知らなかったのかどうなのか、臨也は一向に帰ってこなかった。
そのせいでここのところケーキを食べすぎて、体重が増えたような気がしている。
仕事だからといってこのイベントを忘れるなんて。静雄は自分だけが浮かれているような気がしてならなかった。
そんな二人の様子を汲み取ったのか、サイケと津軽は泣きそうな顔の静雄を宥め始める。

「静雄くんどうかした?どこか痛い?臨也くんに何かされたの?」
「静雄さん……」

心配そうな視線を受け止めて、静雄は何でもない、と無理に笑顔をつくる。
その笑顔を見て、サイケと津軽は二人とも涙を滲ませた。

「静雄さん、無理してる」

津軽が静かにそう呟いて静雄がそのまま泣いてしまったのは数秒後。
それにつられてサイケと津軽がもらい泣きしたのがその数分後。
臨也はとてつもない罪悪感に苛まれながら、一人大きく溜め息を吐いた。

「………ちょっと虐めすぎたかな……」



その後、臨也が静雄を慰めて寝室まで引っ張っていったというのはまた別の話。


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