「さてと、俺疲れたし…そろそろ寝よっかな」
「…え?」
「あ、シズちゃんパンツ取り替えなよ?濡れてて気持ち悪いでしょ」

コートを脱いでハンガーにかけてから寝室へ行こうと歩みを進めた。
シズちゃんの方を見遣ると、ソファに手をつけて座っている。その目はもう既に赤く腫れあがって、唇は嗚咽を漏らしていた。
ごしごしと腕で目を何度も擦っているけれど、一向に涙は止まってくれないようで、俺の方を縋るように見つめている。
何度も何度も俺の名前を呼んで。
ああもう、可愛い!何度言っても足りないぐらい可愛いよ、俺はシズちゃんを愛してる!
とは言えないので、自然と緩む頬を引き締めて、極々自然に微笑んでシズちゃんに手を振ってみる。
すると、嫌だとか行くなとか、これまた珍しい言葉がシズちゃんの口から次々と発せられた。

「ふぇっ、いざっ…なん、で……ひぐっ、やぁ、いざやぁ!」
「ん?なぁに、シズちゃん」

自分でも気持ち悪いぐらい甘い声を出して、シズちゃんの鼻先まで近寄る。
するとその瞬間に、がぶりと唇に噛みつかれた。いや、痛くはないけどなんか食われてるみたい。
それがシズちゃんなりのキスだと気付いたのは、シズちゃんの両手が俺の頬をがっしりとホールドしたことによって。
それから俺の口腔内ににゅるりとシズちゃんの舌が入ってきて、彷徨い動き回る。その稚拙な動き方に、俺は自然と笑みを零した。
と同時に、その幼い舌を自らの舌で以て絡め取り、そこからは俺のペースに持ち込む。

「んむぅ、ふぁ…あ、ふぅ」

唇を少し離す間にシズちゃんから漏れる息と声に、どうしようもなく煽られてしまう。
いや、駄目だ折原臨也、ここで耐えなければ男の浪漫が達成できない!
本日の本来の目的を達成するために、息も絶え絶えになっているシズちゃんから唇を離した。
そして頬を赤らめ、瞳を潤ませているシズちゃんの頭を撫でて、俺はあくまでも寝室に行こうとする。
うぅ、と背後から涙を我慢する声が聞こえた。

「ひぐっ…い、いざやっ…おれに、あきた、んっく、の、か……っ?」
「……はぁ?」

またシズちゃんが何か言い始めたかと思えば、唐突に不安な声が聞こえる。
飽きた?否、絶対にない、断じてありえない。そんなの、俺が再起不能になるかどちらかが亡き者になるか、そのどちらかがないと絶対にありえない。
不安の言葉ばかり漏らすシズちゃんにすぐさま近付いて、その肩を両手で勢いよく掴んだ。
当然、シズちゃんは驚いて体を強張らせる。

「どうしたの。俺がシズちゃんに飽きるわけないじゃん。確かにシズちゃん放置しようとしたのは俺が悪いと思うけど……俺が何かした?誰かに何か言われた?俺が誰かと一緒にいるの見たりした?」
「ふぐぅ……ち、ちがっ……」
「じゃあどうして?」

目線をその赤く腫れあがった瞳から離さずに訊ねてみると、うーと唸りながらシズちゃんが涙を増やした。
それでも唇を噛み締めて涙が出るのを我慢している様子はとても可愛いんだけれども。
理由を言ってくれないと、俺としてもどうすることもできない。
じっと我慢強く、ただ黙ってシズちゃんを見つめていると、その唇が小さく震えた。

「…きょう、つけてた…まふ、らー……」
「マフラー?」
「いつもと、ちがう……におい、が…」

俺が今日つけてたマフラーから、俺の匂いと違う匂いがしたらしい。
マフラー……あ、そういえばあれは依頼人の女からの貰い物……女から、の…。
…嗚呼、そういうことね。

「あのマフラー、依頼人の女からの貰い物なんだよね」
「お、んな……っ、う」
「あー、泣かないの。恋愛感情はもってないから、大丈夫、浮気もしてないし。シズちゃんは嫉妬してくれてたんだよね?」

女、という単語を出しただけで顔を歪めるシズちゃんに、愛しさが増してつい抱きしめたくなる。
それも我慢して優しく問いかけると、シズちゃんが静かに頷いた。恥ずかしそうに頬を染めて。
もう我慢できなくて思い切り抱きしめると、背中に少し震えた手が回る。
可愛い可愛い可愛い可愛い!もうどうしよう、お酒の力を借りるだけでシズちゃんがこんなにデレてくれるなんて。
多分これが絶頂のデレ期到来だね。この世の全ての神に感謝するよ、今だけは。

「い、いざやっ…おれ……うしろが、じくじくして……なんか、なんか、ぁ……!」

いきなり俺の肩に顔を埋めて体を震わせてどうしたんだろうと思ったら、体の異常を告げ始めた。
じくじくって、どんだけ俺を萌えさせる気なの。
ということで後ろがじくじくするらしいシズちゃんの後ろの穴を掘っちゃいたいと思います!

「後ろ、じくじくするの?」
「ぅん……じくじくして、なんか………いざや、さわってぇ…?」

あれ、シズちゃんってこんなに易々と体を許すような子だったっけ?
今シズちゃんは下着を脱いで俺に尻を向けてソファに手の平と膝をつけて、所謂四つん這いの状態。
これって誘われてるのかな?誘われてるよね!
酔っぱらって随分と淫乱で素直になったシズちゃんにご褒美を与えるべく、その物欲しそうに収縮している穴につぷりと指を突き立てた。
うわ、すんなり入っちゃった。

「んぁ!は、あ…」

耐えるような声を出して、それでも腰を卑猥に揺らしているシズちゃんに、俺はどうしていいかわからない。
結局は誘われてるんだと思う。でも、本当にそれに従ってもいいんだろうか?
ひょっとしたら明日辺り、殴られるか蹴られるか殺されるか、もしかしたらあれだけ甘えたんだから別れろ、とか言われるかもしれない。
それは俺としては非常に困る。そんなことになれば今までの俺の努力は水の泡だ。
ずっと唸って考えていると、指を入れたまま動かしていないからなのか、またシズちゃんが泣いていた。
うぐっ、とかひぐっ、とか唇噛み締めて泣くのを我慢している辺り、また飽きたと思われ……。
って、飽きてないから!さっき言わなかったっけ、俺。

「シズちゃんって…酔うと泣き上戸になるんだ……」

今思ったことをぽつりと呟いてから、未だにしゃくり上げているシズちゃんの中に入れた指を無遠慮に動かしてみた。
ぐにぐに、と壁を解すように動かすと、シズちゃんからは驚いたような引き攣ったような声が漏れて、自然と満足感が溢れてくる。
敢えていいところには触れず、指を引き抜いた。もう十分に解れているだろう。
シズちゃんは犬みたいに荒く息を吐いていて、っていうか格好自体が犬みたいなんだけどね。

「はぁ、ふ……」
「ねえシズちゃん、次、何してほしい?」

恍惚とした表情で、肘を折り曲げて息を荒くしているシズちゃんには悪いんだけど……。
いやあ、ここは言ってもらわなきゃ駄目でしょ。ということで俺の浪漫を叶えるべく、シズちゃんにはちょっと頑張ってもらいます。
周りを縁取るように指で円を描くと、ふえぇ、とシズちゃんにしてはみっともない声が上がった。
背中に唇を落としたり、背筋を指で辿るように触る。そうしているうちにシズちゃんの体はだんだんと震えだした。
そろそろ限界近いかな?

「ア、いざ、や……おれっ、いざやの、ほしい……っ!」

はいきました、ドストレート。俺の欲しいとかどんなAV見たのさシズちゃん。
まぁシズちゃんは臆病者だからそんなの見たことないと思うけど。
早急にベルトを外して、スラックスから何からを取っ払って、その物欲しそうに収縮している穴に既に隆起している自身を奥まで挿し入れた。
それでもすんなりと入ってしまうものだから、シズちゃんは凄いんだと思う。

「ヒ、あっ、いざ、ああ!」

女みたいな高い嬌声が聞こえるけど、彼は決して女みたいな低俗な人種ではない。
その細腰を掴んで穿つと、必然的にシズちゃんの口から引き攣った声が零れ出る。
こんなあられもない声を聞けるようになったのは何時頃からだっけ。
そういえば付き合い始めた頃は甘えるなんてこと一切せずに、殺人的なオーラを放ちまくりで、今みたいな声さえ聞かせてくれなかった気がする。俺はその声が聞きたいっていうのに。
本当、今まで苦労してきたなあ。等と戯言を考えていると、シズちゃんが俺を不安げに見つめている瞳と目が合った。

「いざ、ァ…いま、ちがうことっ……かんがえ、やぁ、た、だろっ……!」

…シズちゃんってエスパー?エスパーなの?
否、前々から超人的な能力をもってるとは思ってたけどさ。シズちゃんって本当俺に関しては凄いよね!
そんなシズちゃんに愛しさが増して、必然的に穿つ速度も速くなる。
そのせいなのか、シズちゃんは悲鳴みたいな高い声で喘いだ。

「シズちゃんのことしか、っ…考えてないけど……?」
「うそ、つくなぁ……!ぜってぇ…ちが、あっ!」
「もう黙って」

どこか被虐的なシズちゃんの考えを断ち切る為に、より一層腰を激しく打ち付けて何も言えないようにする。
言葉じゃなく体で追い詰めていくと、シズちゃんは泣きながら俺に縋った。
必死に首を横に振って、らめとかやらぁとか拙い言葉ばかり口にしている。
でも、その言葉の羅列や、ひんひん下で喘いで泣いている様子を見ると、言いようのない満足感が胸に広がって満たされていく。
かわいい。そんな、男には不似合いな形容詞が何度も頭を過った。

「ふやぁ、ァ、ひ…っ、いざ、やぁっ!やんっ、も、イっちゃ…ヒ、やらぁ!」
「うん、イって」
「あ、らめ、らめっ…!そ、なに…したら、おれぇ、こわれっ、ひゃァ…おかし、なるぅ!」

さっきまで四つん這いになって挿れてほしいと懇願していたのはどこのどいつだ。
と言いたくなるほど、シズちゃんは涙をぼろぼろと流して拒絶していた。
多分、挿れてほしいというのは本心なのだろう。でも俺を信じることができないから心は俺に触れられることを拒絶している。
否、恐れているといったところかな。
そういう辺りがシズちゃんは本当不器用。俺じゃなきゃきっと勘違いされて呆れられてるね。
………俺以外なんかと付き合ったりしたら一カ月ぐらい監禁して犯し続けるけど。
そんなことを考えると、自然と律動は早くなってしまうもので。絶対逃がさない。離さない。

「あぁ!?や、なにっ、いざやぁ!」
「ん、ごめんねシズちゃん……っ、俺、ちょっと盛っちゃった、かも……」
「は!?い、いまさらっ、や…あ、あ、ああ!」

確かにシズちゃんの言うとおり、今更。だってシズちゃんはとっくに盛って火照っているというのに。
シズちゃんが俺を恨めしげに睨む視線と、火照っていたのは自分だけだったという悲しさを含んだ視線が俺に突き刺さる。
そんな目で見ても、俺が盛るだけってわかんないのかな。
それでもシズちゃんは断続的にあ行ばかりを声にして、その引き攣った声をリビングに響かせた。
駄目だ、こんなの。こっちがやられる。

「中、出すよ……静雄、っ」
「あ、あぁ、あ、いざやっ!いざや、いざやぁ!」

シズちゃんの理性の箍なんてとっくに外れていて、縋るように俺の名前を何度も呼んだ。
そういうのが一番俺を狂わせることを、シズちゃんは知らないんだと思う。
まあ俺は取り返しがつかないぐらい狂ってしまっているんだけど。
だから俺も久しぶりに名前を呼んでみる。その瞬間、シズちゃんの肩が大きく跳ねあがった。
何度も何度も突いては抜く。それの繰り返しでもうこっちも結構限界だった。
何よりもシズちゃんの破壊力が凄すぎる。いつも可愛いんだけど、今日はツンの部分がなくなっているせいか卒倒しそうなぐらい可愛い。
せめてもの意趣返しで余裕があるふりをして微笑むと、顔をこっちに向けているシズちゃんも僅かながら微笑んだ。
……うん、さすが俺の天使。おかげで余裕なんて全然なくなっちゃったよ。

「あ、ぁ、いざやぁ、いざや、ひあぁ、イくぅ、イくっ!や、あああぁっ!」
「っ……」
「ふぁ、は、ふぅ………」

射精直後の余韻なのかどうか、シズちゃんはぐったりと力を抜いて尻だけを高く上げているという滑稽な格好のまま、眠りについてしまった。
俺も溜め息を吐いてシズちゃんから萎えたそれを抜いて、シズちゃんの表情を窺う。
頬は赤いままに、何とも幸せそうな寝顔。ああもう、シズちゃんの馬鹿。そんな顔で寝てるから俺の方がキュンときちゃったじゃん。
後処理どうしよっかな……。

「ん……」

あ、起きるかな。
むにゃむにゃと口をもごもごさせるシズちゃんの頭を撫でてみた。

「ん、ぅ…いざやぁ」

……はい、寝言で名前呼ぶとか反則ー。
しかも幸せそうな顔して…。
後処理しなきゃな、と思っていた脳が急に微睡みに襲われる。
とりあえずシズちゃんをソファに横たえて毛布をかけ(ちなみに俺は床)、瞼を閉じる前にあのマフラー捨てておこう、とだけ考えて意識を落とした。



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