「寒っ」

今日は厄日かもしれない。
朝から雪が降ってるし、冷蔵庫の中は空だし、電気を点けても電球切れてるし、ドアノブに触れた途端に静電気が走るし。
そしてドアを開けたらこの強風だ。静雄は深い溜め息を吐いた。
一旦ドアを閉めれば、風のせいで吹き込んだ白い小さな粒が水滴へと状態変化して床に跡を残す。
そういえば昨日は雨だったか。ふと思い出したことを小さく呟いてまたドアノブへと手をかけた。

「やあ」

一気にドアが閉まる。否、正確には閉めた。
やっぱり今日は厄日だ、と静雄は確信した。




「シズちゃんの家って、本当何もないんだね」
「……悪かったな」

必要な家電しか置いていない静雄の家は、臨也には物足りないようにしか感じない。
あの後、結局臨也を家に入れてしまった静雄は深く後悔していた。

まずは臨也が土足で家に上がったこと。臨也の家ではそれが普通らしく、脱げと言っても「シズちゃん俺に脱げとか言うの?キャー、臨也恥ずかしいっ」と言って静雄に鳥肌を立たせることしかさせなかった。
もう一つは臨也が静雄の家やら部屋やらの愚痴を只管に言い続けること。先刻の発言もそうだが、建てつけが脆いだとか防音してないから煩いだとか兎に角外よりも臨也自身が煩い。
最後は、臨也が必要以上に静雄にくっつくこと。「シズちゃんの家が狭いんだよ」という明らかな嘘を吐いて静雄を後ろから抱き込んだり、前から抱きついたり。
静雄はその行動が気紛れからくるものだとわかっていても、それでも意識してしまう。
握りしめた拳を震わせ、その状況にじっと我慢して耐えていた。
今も静雄の腕に自分の腕を絡ませながら、静雄と横並びに座って話している。
好きなのか嫌なのかわからない行動に、静雄はただ頭の中で疑問符を浮かべていた。

「あーシズちゃん温かい」
「…意味わかんねえ」
「いや、意味わかんねえはないでしょ。温かい、って言ったのに意味がわからないって。シズちゃんって馬鹿…だったね、うん」

問う前に自己完結させてしまう臨也に、普段なら鉄よりも重い拳が飛ばせるはずの静雄だが、今は顔を赤らめて俯くだけだった。
先程から硬直したきり口しか動いていない静雄に、臨也は内心でほくそ笑む。
臨也は静雄が愛に飢えていて、誰よりも臆病なことを知っていた。
それは来神高校時代から知っていたことで、いつかこの化け物を自分のものにしてやろう、と密かに企てていたのだ。
その企ては、静雄への密やかな羨望と歪んだ愛情からきたものだった。
そして人肌が恋しくなるという冬という季節に、臨也はその計画を実行すべくわざわざ池袋まで足を運んだ。

「俺、腹減ったから何か食いに行かねえと……」
「駄目。座って」
「いやでも……」
「座れ」

鋭い眼差しで射抜くように見つめられ、いつもなら抵抗する静雄も蛇に睨まれた蛙のようになって大人しく座った。
臨也は驚きながらも、その事実に喜ぶ。悪魔のような笑みで静雄の頬に触れた。

「どうして俺がここに来たんだと思う?」

その真摯で鋭い眼差しに、静雄は反抗できなくなる。
一瞬、臨也から問われた内容も忘れかけて、頭を緩く左右に振った。

「俺をからかいに来たんだろ」
「違う」

キッパリと否定される。声音も低く、いつもの臨也とは違ったような。
静雄の瞳は反抗の色から、一瞬にして怯えを含んだ色に変えた。
嗚呼、そんな瞳で見つめてほしいわけじゃないのに。
真摯な眼差しのまま、臨也は静雄と向かい合い、微笑んでその金糸を撫でた。

「シズちゃんを貰いにきました」

おかしい。静雄は直感的に感じた。
言葉の意味は後で理解するとして、その真剣な顔つきでどうして今更敬語を使うんだ。それにどうして俺にそんな事を言うんだ。
静雄の頭の中をいくつものどうして、が支配してショートしそうになる。
臨也は臨也で自分に非など一切ないと言った風に満足げに笑んでいた。

「これは本当だよ?わざわざ新宿から来てあげたんだから」
「わかって、る……」

しどろもどろに静雄が答えると、臨也は床を見つめている静雄の目を自分に合わせた。
途端、静雄の顔が林檎よりも真っ赤に染まる。
その瞳は今にも泣きそうに歪められていて、口元はへにゃりと曲がっていた。
臨也はその表情に一瞬戸惑うも、ごめんね、と心の中だけで謝って口を開く。

「言っておくけど、拒否権はあげないよ」




「ん……ひっ!、ぅ」

断続的に響く嬌声と水音。生々しい音がその部屋で起きている出来事を想像させる。
使い古したベッドは二人分の体重を受けて悲鳴を上げていた。
その事実を、静雄はまだ受け入れられない。
先程から引き攣った声を上げているのも、顔を真っ赤にして荒い息しかできないのも、臨也に好き勝手に弄られているのも、全て自分だという事を信じたくなかった。
一生懸命に首を横に振って否定しても、上から降ってくるのは揶揄するように現実を知らされる言葉ばかり。
静雄が涙に濡れた目で赤い双眸をじっと見つめると、その端整な顔は静かに歪められた。

「駄目だよ、そんな目をされても今更やめることなんてできない」
「あ…いざ、うぁ!」

ビクリ、と体を大きく戦慄かせて静雄は目を見開いた。
臨也の顔は静雄の足の間に埋まっていて、伸ばされた舌は皺を伸ばすように丁寧にそこを舐めていく。
脳髄から蕩けるようなその感覚に、静雄はただ声を洩らすばかりだった。
もうこれで何度目かわからない絶頂の波が襲いかかる。
駄目だ、嫌だ。何度言ったかもわからない否定の言葉を口にしながら、与えられ続ける快楽に溺れていく。
断続的に息を吐き続ける静雄に、臨也は密かに微笑んだ。

「やっ…そ、なとこ、きたなぁ……」
「ん、大丈夫。汚くないし、綺麗」
「ふぁっ!…しゃべん、なぁ……!」

臨也が喋る度に大きく揺れる静雄の体が愛おしくて仕方ない。否、体だけじゃなく、静雄自身が。
愛おしくて愛おしくて食べてしまいたいほどに、臨也は溺れていた。
そんな臨也の心境なんて微塵も知らない静雄は、生理的な涙を溢しながら快感に喘ぐ。
可愛いから余計に虐めたくなる。そんな言葉を思い出して臨也は、まさにそれは俺のためにあるような言葉だ、と自嘲の笑みを零した。
じゅるり、と何かを吸う音が聞こえたかと思うと、静雄は背を仰け反らせて一際高い声を上げた。

「ちゃんと後ろでも感じてるみたいだね、よかった」
「いっ…ぁ、う…?」
「大丈夫、ぐずぐずになってるから入れやすいとは思うから」
「で、でも……」
「……嫌なら俺を殴り飛ばすでも殺すでもして逃げればいい。シズちゃんにはそれができるんだから」

臨也が目を閉じた。十秒だけ待つよ、とその形のいい唇が告げて。
段々とカウントダウンを告げる唇に、静雄は視線を狼狽させてゆっくりと腕を上げた。
でも、その腕が臨也の頬や頭に下ろされることはなく、静かに臨也の首に回される。カウントダウンが2秒前を告げた直後だった。
首の後ろの違和感に臨也が驚き、同時に微笑む。
挿入のタイミングを図っていると、静雄の口が小さく動いた。

「……な」
「へ?」
「こっちこそ…拒否権なんて、やらねえからな」

おずおずと視線だけを臨也に向けて睨みつけるように微笑んだ静雄に、臨也は。

「上等だよ。それでこそシズちゃんだ」

応戦するかのように不敵に口許を歪めた。


拒否権はあげないよ
(それはお互い様だ、この野郎)



身体的な意味でもお嫁さんに貰いに来ました☆的な意味でも言わせたかったんですw
「シズちゃんを貰いにきました」って(´・ω・)
あと、臨也の命令口調←

最初の臨也が受け受けしすぎた……
結局は俺得です、さーせんorz


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -