がたり。コーヒーカップが床の上に落下して中身が染みを広げていく。
けれど、そんなことも気にならないぐらい平和島静雄は、目の前の認めたくない事実に驚愕していた。

確かに、いつも臨也が弄っているパソコンの中身を見てみたい、という好奇心が発生したのは静雄が悪いといえる。
だが、そのとき臨也もパソコンの電源を切らずに、そのままの状態で放置して家を出たのも悪い。
その悪い偶然が重なって、この悲劇を生んでしまったのだ。
静雄が見たのはチャットの履歴。臨也のコメント部分のHNのところに、甘楽と書いてあったから臨也=甘楽だと静雄は理解した。
そして履歴をスクロールさせていく度に、驚愕の事実が静雄の頭に入っていく。

「……臨也って、オカマだったのか?」

静雄は、その甘楽という人物の喋り方や口調、一人称などを見て、絶対に女だと思った。
だが、このパソコンの前に座って甘楽という名前でコメントをしているのは、確実に臨也だ。
その矛盾した事実に、静雄は頭が許容範囲を越えてしまい、結局どういうことなのか理解できなかった。
兎に角一つわかったことがある。臨也はオカマだ。だから男である俺を選んだ。
そこでまた一つ、疑問が浮かんでくる。

「じゃあ何で俺を攻めるんだ?」

女の心であるはずのオカマならば、男に攻められたいと思っているはずだ。
けれど臨也は、静雄が困っているところや慌てているところを見て気持ち悪い笑みを浮かべているし、静雄が泣いていればそれこそ悪魔みたいな、心底満足したような笑みで更に追い詰める。
そんな臨也の性格を理解して静雄は付き合っていたのだが、今となっては全くわからない。
臨也のパソコンのデスクの前にある高そうな椅子に座り、じっくりとチャットの履歴を見ていくことにした。
でも、見ていけば見ていくほど自分の知らない真実が次々と静雄の頭に入っていく。
その情報量の多さに、静雄の脳はとうとう悲鳴を上げた。静雄は椅子に座ったまま、背もたれに背を預け天井を仰ぐ。
鼻の奥がつん、として目頭がじわじわと熱くなる。
その感覚を、静雄は知っているから顔の前で腕を交差させようとした。
その瞬間、突如視界が真っ暗になり、腕が金属のような何かで後ろ手に拘束される。
わけがわからなくなって静雄が必死に思考を働かせていると、背後から耳元に近付いてきた吐息がその正体を教えた。

「シズちゃんは悪い子だね。俺の情報源を盗み見るなんて」

出かけたはずの、臨也の声。静雄の思考は一時停止。
どうしよう、見られた。その言葉ばかりが脳の中を飛び交い、臨也の手が忙しなく動いていることに気付けなかった。
臨也は目隠しの布の上から静雄の瞼辺りをぐっと押して、耳元に唇を近付ける。

「この目で見たこと、ぜーんぶ忘れるって言うなら許してあげるよ」
「……え?」
「見たんでしょ?このパソコンの中身。少なくとも、チャットの中身を」

静雄は気まずそうに押し黙る。それを肯定と受け取って、臨也は更に言葉を続けようと口を開いた。
けれど、それを静雄は阻む。

「臨也って、俺と仕方なく付き合ってるのか?」
「は?」
「ほ、本当は、こんな俺みたいな、その……性、の知識がない奴より、もっと、て、テクニックのある奴の方が、いいんじゃねぇのか?」
「え?シズちゃん何のこと言ってんの」
「だってお前、攻められたいのに、無理して俺に………」

今度は臨也の方が眉を顰めた。攻められたいなんて言ったことないんだけど。
静雄は何かを勘違いしているらしい。
臨也は原因を探ってみた。否、多分一番の原因はこのパソコンの中身だろう。
一体何が静雄を誤解させたのか。パソコンの中身の情報を、頭の記憶の棚から引っ張りだして次々と探していく。
……あ、ひょっとしてネカマがバレた?
結論的にその答えに辿り着いた。それなら辻褄が合う。

「シズちゃん、俺のことオカマだと思ってるんでしょ」
「え?あ………」

その瞬間、静雄が気まずそうに顔を赤くさせたのを臨也は見逃さなかった。
臨也は静雄の肩に手を置き、また耳元に唇を近付ける。

「確かに俺はインターネットという情報世界で性別を偽ってる」

服の中に手を差し入れる。

「あ、や、やめっ」
「けど、それはあくまで俺の仮面であり、俺の本当の姿ではない」

胸に手を這わせ、突起を痛いほどに摘む。

「ひぁ、やぁっ」
「俺は乙女心なんて持ち合わせてないよ。まぁ性別を偽るのは楽しいけどね」

片方の手を、既に寛げてある下半身へと伸ばす。

「ふぁっ、ん、んむっ」
「でもそれは惰性でしかない。現に、俺はシズちゃんをこうやって虐めるのが何よりも楽しい」

既に勃起しているそれを包み込んで、上下に強く扱く。

「んぁっ、あ、いざっ、あ、やっ」
「何より愛しくてたまらないんだよ。わかってくれるかなぁ、シズちゃん?」

扱きながら、耳に息を吹きこむ。
すると、静雄は痙攣しながら背をしならせ、達した。

「ふ、はぁ……」
「で、わかってくれた?俺がどれだけシズちゃんを愛してるか」

背もたれに背を預けてずるずると座り込み、静雄はゆっくりと二回頷いた。そのとき、臨也の中に言いようのない満足感が湧きあがる。
静雄は射精直後の余韻からか、顔は酷く紅潮し、体全体が脱力していた。
手首にかかった手錠がガチャガチャと音を立てることもなく、ただ呼吸音だけが部屋に響く。
臨也は目隠しの黒い布を取り去ると、焦点の合わない静雄の目と視線が合った。

「ごめんね、怖かった?」

椅子を回転させしゃがんで、静雄と向かい合わせになると、静雄は臨也に抱きついた。
そして、いきなりでビックリした、と可愛らしい文句を言いながら、肩口に顔を埋める。
ああもう、これからシズちゃんには勝てない。きっとこれからも勝てないまま、甘やかしてしまうだろう。
臨也は微笑みながら静雄の頭を撫でる。
自らの服にコーヒーの染みやら、精液の染みやらができても、臨也は気にせず静雄を抱きしめ続けた。

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