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お礼文:焦る六臂と小悪魔月ちゃん



「し、静雄さん!」


日付が変わった頃、そろそろ寝ようかと布団に潜り込んだところに、けたたましい音を立てて月島が扉を開けた。
それもかなり焦った様子で。
よく見れば衣服も乱れていて、目にも涙が浮かんでいて……。


「月……?その格好……」
「へ?あ………!ご、ごめんなさいっ」


衣服を手で簡単に直してから、月島は恐る恐る部屋に足を踏み入れた。
この様子じゃ、人間不信にでも陥っているんだろう。
臨也に何かされたのか、はたまたウイルスにでもやられたのか。
少し色気づいた月島の様子をじっと観察した。


「そ、その……」


途端に顔を真っ赤にさせて、目を逸らす月島。
ああ、こういうのを可愛いって言うんだろうな。
臨也が月島のことを可愛いって何度も連呼するのがわかる気がした。
別に嫉妬、とかじゃないけど……。


「静雄さん、今日は、相談があって…」
「おう、何だ?」
「その、最近…六臂さんが、か、体を触って、くるんです……っ」


もうそりゃあ悲しそうな顔をして語りだすもんだから何の相談かと思えば。
……ただの惚気か。
正座したままの月島に、肩の力を抜いてはあと溜め息を吐いた。
そんな俺の様子に月島は再び涙を滲ませ、終いにはしゃくり出してしまう。


「ち、がうんです…っ、俺、怖く、てっ、ろ、っぴさん、が……っ」
「ご、ごめん月!って、六臂が怖い?」


月島の言うろっぴ、とは彼の恋人のことだ。
のはずだったが、恋人を怖がるとはどういうことだろう。
目の前の月島は気を抜くとすぐに泣いてしまいそうで、何故か俺も正座して対応していた。


「六臂さん、怖い、です……お、俺が料理、してる、のにっ、エプロンの、紐解いたりっ、服の、中に手、入れたり…!」
「………は?」
「あ、危ないって、言って、るのに……!」


ああ、なるほど、そっちの怖いか。
てっきり恐怖心の方かと思ったらそういうことなのか。
心配して損した、という風に再び溜め息を吐くと、月島はごめんなさいと小さく謝った。
ん?ちょっと待て、さっきの言葉からだと…。


「月島、」
「は、はいっ!」
「お前……もう六臂と、その……し、シたのか?」
「した……?何をですか?」
「な、何って!わかるだろ!その………あ、アレだよ、アレ!」
「アレ…?」
「だ、だから………!」
「セックス、のことでしょー?」


誰の声だ。そう思って玄関の方を見てみると、黒と赤のコントラストが綺麗な六臂、月島の恋人である彼が立っていた。
月島は玄関を振り返った瞬間、顔を青くして俺の後ろに回り込む。
まるで俺を盾にするように、肩から目だけを覗かせていた。
俺も俺で、いきなりの彼氏の登場に呆気にとられていた。
そして六臂は面倒そうに腕を左右に広げて。


「扉の外から話聞かせて貰ってたけどさあ、だってつきちゃん奥手なんだもん。俺だってねえ、鬼じゃないから大切にはしてあげたいよ?でも俺にもちゃんと欲ってもんがあって、つきちゃんを大切に扱いたいと思う反面、泣かせて啼かせてぐちゃぐちゃにしたいって思うこともあるわけですよ、わかる?」


盛大な溜め息を吐いて一息でそれを言いきった。
うわ、こいつマジで臨也と似てやがる。
こういう言葉は臨也にも言われたことがあるから、俺にも言われているような気がしてならなかった。
一気に多大な情報量を押しつけられたであろう月島を見遣ると、小さく体を震わせて顔を真っ赤にさせている。
多分、ショート寸前だろう。目の焦点が合っていなかった。
大丈夫か?と声をかけると、駄目です、と素直な答えが返ってきた。


「六臂さ、ん……」
「ん?」
「お、俺は、どうしたら、いいんですか……?」


ひょこ、と顔を出して六臂を下から眺める月島の無自覚天然な可愛さに、眩暈を覚えた。
それは六臂も同じようで、股間を気にしながら悪い意味でニコリと微笑む。
あ、嫌な予感。


「とりあえず俺に抱かれて」


そう言い放った六臂は一気に距離を詰め、月島の手をとって立ち上がらせる。


「ろ、ろろ、六臂さん!?だ、抱かれ…!?」


本をよく読む月島は、その言葉の意味はわかったようで、終始顔を真っ赤にさせて慌てていた。
月島の手をとった六臂は早足で畳の上を歩いていき、そのまま玄関へと直行する。
やっと出て行ってくれた、あのバカップル。
そう思った矢先、玄関の扉から過ぎ去る間際の月島の唇が俺の名を呼んだ。


「静雄さん、」
「ありがとうございました」


声は発していなかったが、月島の唇の動きは確かにそう動いていた。
おまけに、月島とは思えないほど妖艶な笑みを残して。
閉まる扉の間から見えたあの笑みは、きっと。
ああ、そうか、あいつは無意識なんかじゃなくて、計算して意図的に俺に頼ってきたのか。
じゃあ、あいつがやっている仕草は全て、全て全て、計算。
俺にもそんぐらいの頭と度胸があればなあ、とあの妖艶な笑みを浮かべた月島を思い出して畳の上に横になった。



だって貴方が
臆病だから













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