「やはり、男の子だといくつになっても憧れるものでしょうか?」

 俺につぶやかれた疑問に「興味ねーよ」と足を組み替える。自然に吐かれたため息にも近い空気が白く広がっていった。最近じゃあ、この身体もすっかり板についたもんだよなァ。今日もどこのどいつか知らねえこの男は残念ながら俺に時間を捧げている。それにしてもだな、何でお前ちょっと羨ましそうなんだよ……。
「……ったく、茂夫以外は男の子っつー歳じゃねえだろ」


 「遊園地から依頼だ、お前ら空けとけよ。早く終われば園内で遊ぶぞ」と霊幻が騒がしかったのが記憶に新しい。何でもお化け屋敷に霊が出るって話が流れて困っているとか言ってたな。来る奴らは怖がりに来てんだろ。別にそのままで良いじゃねえか。……まあ、それよりも一番怖いのはこの胡散臭い相談所のコイツらだけどな。揃いも揃って予定がねえから全員参加ってよ。「三人並んで寂しい男共め」と投げかけてやったら、「お前もこの苦しみを味わえ」と憑依して来いとのお達しがあった。おまけに「俺たちだって女と遊園地くらい行くわ」と運悪くなまえも頭数に入れられた。
 入ってみれば正体は「居心地が良い」と住み憑いた本物で、確かに装飾が不自然に揺れるわ、不快な音は鳴るわでずっと雰囲気が出ていた。こりゃあ、怖いもの見たさで来園者が増えるって訳にはいかねえな。でも、茂夫に芹沢、それに俺だろ。向こうさんも最初こそ抵抗していたが、大人しくした方が良いって思ったんだろうな。力を出し切る前に依頼は呆気なく解決となった。霊幻の読み通り、依頼者からの謝礼は人数分のチケットで、俺たちは園内を回ってそれなりに楽しんでいた。んで、今は休憩中。そのな、寂しい男共が何でもヒーローショー? だとかのアナウンスを聞いて「懐かしいな。お前らも観てたろ? 行こうぜ」と走ってったよ。そこまで付き合えるか、俺は残る。先程まで並んで座り、休憩していたベンチに今は三人分、間に空きが出来た。残ったのは端と端に俺となまえ。別に詰め寄る義理ねえだろ、とそのまま座っている。


 「エクボさんは良かったんですか」
「俺が行くかよ。しっかし、何でこういねえもんにすがるかね」
ほんと、これだよな。いつか気付くときが来るだろ。虚構なの、本物はいないの。
「ヒーローなんていねえよ。んな存在はな、ガキの間だけだっつーの。大人になったらいつの間にかそいつの中から消えてんだろ。それをアイツら、特に霊幻はだな……」
「信じたり、好きでいても良いじゃないですか。大人も子どもも関係ないですよ」
「構わねえけどな。どうもお前らは見えねえもんにすがる傾向があんのな」
俺にとっちゃあ、好都合だけどな。そのおかげで人間は操り易いし、恩恵にもありつける。散々批判したが、どうぞご勝手ご自由にすれば良い。
「見えないってのはいけませんか?」
「良いも、悪いもねえよ。いねえから、どうこうもない」
「それなら……」
なまえが不服そうに考え込んで、口元に手をやった。何となく嫌な予感がした。
「それなら、さっきのお化け屋敷で、さり気なく私の前に立ってかばってくれた悪霊さんも、私には見えなかったんだろうなあ」
誰ともなくつぶやかれた台詞に言葉が詰まり思わず向き直る。
「それとも今ここで、周囲の怖そうなお兄さんたちよりさらに怖い視線をさりげなく向けている悪霊さんもいないんだろうなあ。私の隣にはスーツでほっぺたの赤い男性がいらっしゃるだけですもんね」
そんな鈍感じゃないですよ、と言い返せない俺を勝ち誇った目が笑った。
「私は見えないヒーローはいるかなあって思ったんですが、いないから、どうこうないんですよね」
どうですか、と言わんばかりになまえが俺を見ている。
「鈍感じゃない、とか言ったな」
……んだよ、俺の意見に納得してねえなら、そう言えよ。まさかこんな形でコイツから反撃が来るとは思わなかった。
「……じゃあな、お前。知らんがその悪霊とやらが、どうしてそんなことしてたかわかるのかよ?」
ちくしょう、何で相手に優位に立たれてんだよ。違うだろ、俺様は神になる存在なんだよ。人の上に立って転がす側なの。悔しかねえけどよ、小娘一人にこの俺がやられっぱなしってのは性に会わない。少し脅してやろうと、肩を抱き空いていた距離を詰める。予想通り、真っ赤な顔に押し返された。一気に形勢逆転。さあ、嬢ちゃん。どこのどいつか知らねえその悪霊の話を俺に教えてくれよ?
「鈍感じゃねえなら、わかってんだろ? 言ってみろよ。俺が聞いてやるぜ?」
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