weigh



今日もまた、知らぬ間にディエゴが私の家に上がり込んでいた。彼は常識というものを知らないのだろうか…。ダイニングでコーヒーを飲む姿は、最早見慣れたものである。勝手に入るなと言っても聞かないので、今では黙認している…というか、追い返すのが面倒くさい。

そういえば、いつもどこから入っているのだろう。合鍵は渡していない。窓も全部閉めていたはず…、考えてはいけない気がしてきた。何処も壊されていないといいな。虫とかが入ってきたら困る。

キッチンでのんびり動いている背中を眺める。勝手に使われているけれど、もうあれこれ言うのは諦めた。たまに料理してくれるし、それが美味しいので許す。…友人じゃなかったら不法侵入で通報しているところだ。

…腰細いなァ。エプロンの紐が締め付けて、それをさらに際立たせる。


「……ディエゴってさぁ、体細いよね」
「突然なんだ?」
「いや羨ましいなーって」
「… まぁ、減量しているからな」
「ふ〜ん…体重どのくらいなの?」
「聞いたら泣くぜ」
「じゃあ聞かない」
「賢明だな」


彼がそう言うからには、きっと私の想像以上に軽いのだろう。でも身長は少なくとも私よりは高いし、見た目ガリガリではないし、筋肉も程よく付いているから…57kgくらいと予想する。答えを聞いたら絶望しそうなので、あえて聞かないでおこう。

私の前に、暖かいココアの入ったカップを置かれた。見上げると、彼の手には同じもの。…あまりに頻繁に来るものだから、つい買ってしまったものだ。そこから漂う芳香は…いつものコーヒーかな。

彼はコーヒーを一口飲んでから、また何か作るのか冷蔵庫を覗きだした。あなたは主婦ですか。…とすると、椅子に座ってぼーっと眺める私は亭主か何か?仕事しない亭主とはこれいかに。

…ディエゴが気になる。というか体重が気になる。細いの羨ましい。


「…おんぶしたい」
「は?」


脳内でつぶやいたつもりが、声に出してしまった!彼が訝しげな顔で私を見つめる。…言ってしまったからには仕方がない。


「あ……お、お姫様抱っこでもいいよ。…頑張る」
「お前…大丈夫か?」
「うん」
「(頭的な意味で言ったんだが)」
「軽いならできそうだし…さぁ」
「……」


しゃがんで必死にアピールしてみると、彼は料理しようとする手を止め、渋々といった様子で私の背後に立った。両肩に手を乗せ、そのまま足を脇腹に滑り込ませてくる。ぎゅ、と足を腕で挟み込み、立ち上がる―――


「えっ」


思わず声が出てしまった。私でもかなり下の方を予想していたはずなのだが、これは……。


「軽ッ…」


なんということでしょう。想像よりずっと軽いではないですか。立ち上がれないで潰れるかも、とか思っていた私が馬鹿だった。侮りすぎた。このくらいの重さなら、走り回ることもできるかもしれない。しないけど。

…なんかディエゴが震えているような。……。


「貴様!笑っているなッ!?」
「……想像通りの反応をするから」
「ムゥ〜…」


なんか悔しい。ゆっくりと腰を下げ、降りてもらう。
…そうか、しょっちゅう家に不法侵入してくるから忘れていたけれど、彼は騎手なんだった。それも天才とか言われている。競馬で馬に乗るのだから、軽いのは当たり前か。…ディエゴの体重、私と同じくらいかな?こんなに身長が違うのに。

ジロジロと見ていたせいか、ディエゴが頭をつついてきた。


「女は痩せてるより少し肉が付いてる方いいんだよ」
「でも見る分には細い方がいいんでしょ」
「…まあそれもあるが」
「……、別に恋人とかいないからいいし」


そう言うと、彼は私をじっと見つめてきた。…何も変なこと言ってない。


「何か?」
「…別に」


ふい、と顔を背けた彼は、何事も無かったかのように、また料理に取り掛かった。…ココア飲もう。





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