誕生日を祝ってもらう



「ディエゴ、今日は何の日か知ってる?」


ソファに腰掛けながら本を読んでいるディエゴに、今思いついたことを尋ねる。誕生日のとき、恋人などに言っているのをよく聞くセリフ。ありきたりなのはあまり好きじゃあないし、恋人でもないけれど、ちょっと言ってみたかった。


「…さぁ?知らないな」
「……そう」


本から目を離さずに答える彼に、やっぱりね、と心の中で呟く。ディエゴのことだから、どうせ知らないんだろうなァ…とは思っていたけど、実際言われてみるとちょっと寂しい。ディエゴの誕生日を知らない私が言うのも変だけど…。

誕生日祝ってあげたいな、と思って前に聞いたとき「忘れた」なんて言われたし、知らなくて当たり前といえば当たり前なのかも。…ほんとに忘れてるのかな?

ディエゴの向かい側のソファに座り、その伏し目がちな顔を眺める。整いすぎて憎たらしい。


「なぁ、朱」
「…なに?」


少しも気にしていない風を装いながら返事する。…他の人には祝ってもらえたもんね。全然気にしてないし。

横にあったクッションを抱きしめていると、ディエゴは本を読みながら、どこかに隠していた小さな箱をこちらに投げて寄越した。前触れも宣言もなかったので当然上手く受け取れず、指に弾かれて私の隣に落ちてしまった。…床に落ちなかったから良しとしよう。


「…これ、」
「お前にやる」
「………」


なんだ、知ってるんじゃないか。なんでさっき嘘を吐いたんだ?

綺麗な水色の箱の蓋をそっと持ち上げる。するとその下から、青と緑の小さな宝石が散りばめられ、花の模様が入った指輪が現れた。


「…これ、いいの?もらっちゃって」
「よくなかったら渡してないだろ」
「…うん、そうだね。ありがとう」
「………」


それでも彼は本から顔を上げない。…同じところばかり、目が行ったり来たりしているように見える。気のせいじゃあなさそう。心なしかそわそわしているようにも…ちょっと考えすぎかな?

彼が平常心を保てていないようなので、大人しく指輪を嵌める。迷った結果、左手の中指にした。…いつの間にサイズ測ったんだろう?


「大切にする。肌身離さず持ち歩くね」
「…あぁ」


ディエゴがそっけないのは今に始まったことではないのです。元から祝ってもらえると思っていなかったので、プレゼントを貰えたのはとてつもなく嬉しい。


「ディエゴ、ありがとう」
「……ん」


ディエゴの背後に回り、耳元で囁く。…ちょっと耳が赤くなった。読書の邪魔してやるんだからね!…誕生日だから許される気がする。


「それっ」
「!?」


ぎゅぅ、と抱きついてみたら、真っ赤になってしまった。かわいいなァ!





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