邂逅



ディエゴが死んだ。

嘘でも、冗談でもなく。その証拠に、身体が腹のあたりから途切れてしまっている。傍に転がっている足がもうひとつのパーツなのだろう。
あぁ、私がいたというのに。どうやっても助けることができなかった。死んでしまっては、どうすることもできないというのに!
嘆く私を嘲笑うかのように、彼の血がじわり、じわりと広がってゆく。



彼の前に座り込んだ私は、土と血にまみれた彼を抱き寄せ、青ざめた頬に自分のそれを押し当てる。私を濡らす血がひやりと冷たい。死んでしまった、と実感する。じわりと溢れる涙が視界を歪める。されるがままの彼の頭を抱き寄せた。貴方が生きている間にこんなことをしたら、突き飛ばされていただろうな。案外死んでいるのもいいかもしれない。見ただけでさらさらだと分かった彼の髪は、血が混ざり合って見る影もなくなってしまった。鼻を押し付けると、生ぬるい鉄の香りがした。


「ディエゴ…」

「たったひと時でも貴方と出会えて、知ることができて、幸せだった」

「愛していたよ、この世界で出会うずっと前から」

「もっと、早くに言っておくべきだった」

「もう…あなたと、話をすることも、できない…」


はらりと零れた涙が彼の頬を濡らす。
私の声などもう聞こえない。今では伝えることすら叶わないんだ…。
きゅ、と腕に力を込める。
悲しみに押しつぶされてしまいそうだ。



今思うと、彼は私を警戒していたのだと思う。突然自分に好意的な人間が現れたのだから、きっと何かしら裏がある、そう思ったのだろう。私が同じ立場でもそう思っただろうから、責めるつもりは毛頭ない。もちろん悲しくはあったけれど、仕方がないと割り切った。時間が解決してくれるだろうと。結局、その時が来る前に死んでしまったのだが…。


「幸せだったか」
「まだ復讐は終わっていないぞ」
「……」

なぜだかディエゴに笑われた気がした。
私は、彼の過去を知っている。彼がそれを知ることはなかったが…。




「いつか生まれ変わって、もう一度出会えたなら…」
その時、私はまたあなたに恋をするのだろうか。
「どんなことでもいい、私とまた…話を、してくれないか」




・・・




「お前、オレの事を覚えていないのか?」
「えっ…と」
「……」

私が廊下に出たところで出会ったこの人は、今日から隣人になるという。
一度も染めていないであろう、光を反射しきらきらと輝く綺麗な金髪。日本人と違った、彫りが深く悔しいくらいに整った顔。
最初はなんだこの人、と思ったが、彼の顔を暫く見つめていると、既視感に襲われた。もしかしたら、この人の言う通り、私たちは過去にどこかで、出会っている…?少しもそんな記憶は無いけれど…。

「…覚えていないようだな」
「……」

突然ズキリ、と頭が痛くなり、思わず手で押さえた。

「ッ……」
「おい、どうした」

私は、何か、忘れているのか…?
消えかかっている記憶に必死に手を伸ばす。決して忘れてはいけないことに、私は気付かぬ内に鍵をかけてしまっていた。漸く届いたと思った瞬間、記憶が怒涛の勢いで頭に流れ込んできた。
「う……」
容量を超える情報量に頭が耐え切れなくなり、私の意識はそこで途切れてしまった。





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