fly⇔trip



「眠い……」


睡魔に襲われた頭はかつてないほどぼんやりしている。階段を覚束無い足取りで登っていると、ガクン!という衝撃と共に浮遊感が襲ってきた。


「え」




「ッ!」
「ぐっ」
「いッ…たァー……え?あれ、ここどこ……うわぁッ!」
「……」


なんと、私が落ちたところに謎のピンクい髪をしたおっさんが……じゃなくて、この人、白目剥いて……み、脈がない!


「し、死んでる……あ、わわわ私、殺人犯になっちゃうーッ!!」
「うるさいぞォ……ン?誰だ貴様は」
「ひッ」


なんと目の前には全裸に限りなく近い格好をしたムキムキが!慌てて視線を逸らすと結構強そうな男達!これはまずい。間違いなくいちゃいけない場所だッ!


「し、失礼しましッぐぇ」
「待て」
「なんでひょ…うぐ」
「女、今こいつを殺したろう」
「は…………ひぃ」
「丁度暇を持て余していたところでなァ」
「…………」
「貴様がいれば何か面白い事が起こる予感がするのだ」
「……」
「飽きるまで逃がさん……おい、聞いているのか」
「カーズ、その子気絶しているぞ」
「ム?」



***



今、私はお皿洗いをしている。何やら吉良さんという方が気絶した私を介抱してくれたそうなので、その他もろもろ迷惑をかけたお詫びに、である。お皿洗いしましょうか、と申し出ると喜ぶ吉良さんになぜかゴム手袋を付けられた。そうしないと気が済まないというので大人しく従った。

ピンク髪の人は目が覚めたら生き返っていて驚いた。なんでもそういう体質らしい。不思議な話だが、よく死ぬので私は殺人犯にならずに済むそうだ。よかった。話してみるとそんな悪そうな人達でもなかった。見た目で判断するのはよくないね。

にしてもなんで6畳1間に5人も……?聞くともう2人いるそうだ。1人1畳にも満たないとは。


「あっ」
「グハッ」
「あー…あ……すいません」
「またやったぞ」
「私の勝ちだな」
「チッ」


またやってしまった。これで何回目だろう……。考え事はやめよう。ディアボロさんが背後を通っただけで包丁が飛んでいくなんて、不幸体質なのかなんなのか。私のせいではないと思いたい。というかカーズさんとDIOさん、なぜ賭けをしているんです。

ディアボロさんから包丁を引き抜く瞬間、何か刺さった時は抜かない方がいい事を思い出した。が、時すでに遅し、服が返り血で血まみれになってしまった。


「げぇッ汚……」
「ふっ」
「朱、ディアボロを寄越せ」
「あぁ、はい」


横にずれると、カーズさんはディアボロさんの体を自らのそれに押し付ける。すると一瞬でディアボロさんはいなくなった。DIOさんがこっちをガン見している……なんだろう、食べたかったのかな。


「手品みたいですね」
「フン。手品とは違って本当にいなくなったがな」


そう言ってカーズさんはおもむろに、私の顔をぷにっと掴んだ。顔近いです。


「?」
「ふむ、……」


私を上から下までじっくり眺める。品定めされているような……ちょっと居心地が悪い。


「……わたしは好物を最後にとっておくタイプなのだ。後は分かるな?」
「ヒィ!」


た、食べる気だ!慌ててカーズさんから距離を取ろうとするものの、手に力を込められたせいで離れられない。

助けて!と視線で近くにいたプッチさんに訴えてみるも「私にはどうにもできない」と返され、その隣のDIOさんは捕食者の目をしていたので見なかったことにした。吉良さんはさっき買い物に行ってしまった。絶体絶命、万事休す……。


「ただいま」
「! た、たひゅへて……!」
「……?」


丁度いいところに誰か帰ってきたようだ。視線だけで確認すると……


「ディえごォ!!?なんれここっぶ」
「よそ見している場合かァ?……ン?今ディエゴと言ったか?」
「知り合いか」
「……朱……か?そうなのか?」
「んー!」
「カーズ、手を離せ」
「断る」
「フーン。もうラッコさんのぬいぐるみ買ってやらんぞ」
「ム……」

「はっ、助かった……」
「……朱だよな?どうしてここに」
「えーと、……どうしてだっけ?階段から落ちて、それで……?」
「……まあいい、お前がいれば、それでな……」
「へ?」


ギラギラとした視線、さっきのDIOさんのような……。それに、前に見たより少しやつれているように見える。何かあったのだろうか。


「ディエゴ?どうしたの?」
「……朱、お前のスタンドが必要なんだ」
「え」



***



「そう、そういうこと……いいよ、お金は私に任せて」
「すまない、助かった」
「ディエゴが1人で5人分のお金を稼いでた今までがおかしいの」
「朱……」

「……感動しているところ悪いが、それ、早く洗わないと染みになるぞ」
「あっ」


血まみれなのすっかり忘れてた。




back