二人の(非)日常編2 #9



「口開けて〜そうそう」


ディエゴに口を大きく開けてもらうと、目の前に小さな歯がずらりと並んだ。……恐竜だったせいか、普通の人より歯が尖っているような。全部が八重歯みたいになっている。眺めながら、歯磨き粉をつけた歯ブラシを突っ込む。歯をこすっていくと、泡がモコモコと出てきた。


「飲み込まないようにね」


念のため言っておくと、ディエゴは口を開けたまま頷いた。シャクシャクシャク。楽しい。

ディエゴはさっきまでかなり眠そうだった(というか寝てた)のに、目が冴えてきたらしい。ぱっちり澄んだ瞳をこちらに向けている。いつ見てもかわいいな。飽きるくらい同じことを思ってるけど、かわいい。どこ見ても整ってるというか…見つめすぎて手が止まっていた。

隅々まで磨き終わったので、嗽をさせる。踏み台は無くても大丈夫だった。…こんなに身長あったかな?


歯磨きが終わったから、髪を乾かしに入ろう。ドライヤーの前に、櫛で髪全体を梳かして回る。さらさらだ。

30cmくらい離したところから、ドライヤーの風を吹きつける。短いのですぐに乾いていく。

鏡の向こうの彼と目が合った。そのまま見つめ続ける。どちらが先に目を逸らすかな?…


どちらも目を逸らさないでいたら髪が乾ききっていた。








ふかふかのベッドに2人で潜り込む。深く息を吐くと、一気に脱力感が押し寄せてきた。色々あって疲れたなァ。

目を閉じて眠りに落ちるのをじっと待っていたら、ディエゴがぴったりくっついてきた。寒いのかな。抱き枕にするように抱きしめると、別段冷たい訳ではなかった。人肌って、なんでだろう。すごく落ち着く。

暫く蜂蜜色の髪を撫でていたら、規則的な寝息が聞こえてきた。先に眠ってしまったみたいだ。すぅ……すぅ……。声と共に、私の思考も溶けていく。大きな波に飲み込まれ、私は深い眠りに沈んでいった。





















































いつかの木の下。ひとり座って辺りを眺めた。


真っ青に晴れた大空と、広い草原に挟まれて。暖かな風が吹き抜けた。


果ての見えない地平線。阻むものは何もない。


「……」


音になれない声が、聞こえた。


それと同時に、後ろから髪をさらさらと撫でられた。


変わらない白の手袋。


振り返ろうとしたら、その手で阻まれてしまった。


私はそっと、手袋の上から、私を阻んだ手を握った。


小さく震えているのが分かった。


そしてまた私は、彼のために涙を落とすのだ。






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