二人の(非)日常編2 #1



寝室の電気を消し、ベッドに潜り込む。腕の中には丸くなったディエゴがいる。いつ見ても猫みたいだなァ〜。もふもふじゃあなくてすべすべだけど。指の腹で首を撫でてあげると、段々眠くなってきたようだ。随分リラックスしたような体勢になった。私も眠くなってきた。次に目覚めるまで、目を開かないぞ。次第に脳がぼんやりして、意識が闇に落ちていく……











































広い広い草原の真ん中に、私はひとりぽつんと立っていた。


遠くの木の下にいる、真っ白の馬と、それを撫でる男の影。


傍に行くと、私に気付いた彼は、その手を差し出してきた。


自分の手をそっと乗せると、すい、と引き寄せられた。


嬉しそうな顔で、その人は私の頬に、手袋で覆われた手を添えた。


何故だろう、この手をとても愛おしいと思う。私の涙が頬を伝った。


「…………」


何を言っているの。聞こえないよ。


「…………」


その人は、私を抱きしめると何処かへと消えてしまった。


















































なんか腕がもふもふするなァ……。ディエゴの毛が伸びたのか?ふわふわしてて良い触り心地。暫く撫でまくって堪能していたら、ディエゴって毛生えてたか?と気がついた。

瞼がくっついたように開かないのを無理矢理こじ開ける。欠伸をしながら布団の中を覗いてみると、誰かの頭が見えた。金髪のような…誰だ?目が霞んでハッキリ見えない。ゴシゴシとこすってもう一度見たら、恐竜がいた。どこからどう見てもディエゴだ。……もふもふの金髪はどこへ行った?

考えるのも面倒なので、寝ぼけて夢と見分けが付かなかっただけと結論付け、再び瞼を下ろす。夢と現実がごちゃまぜになるのは何度かあった。多分それだろう。






プツリ、と夢から覚めた感覚。ゆっくりと目を開くと、部屋に差し込む陽の光が目にしみた。もう朝か…。まだ布団から出たくない。時刻を確認すると、9時43分。そろそろ起きる時間だ。ディエゴがお腹空かしていそうだ。部屋を見回し、ディエゴの姿を探す。……あれ。ディエゴがいない。いつもなら私が起きるまで隣で寝ているのに……私の寝相が悪すぎて逃げたか?ドアが開いてるから、リビングあたりに行ったのかな。一度大きく伸びをしてから廊下に出る。

ペタペタと足音を鳴らしながらリビングへ向かう。中に入ると、隅の方でディエゴが壁に向かって座っているのが見えた。


「……ディエゴ?」


声をかけると、ディエゴは驚いたように振り返った。いつもは驚かそうと近付いてもバレているくらいなのに、様子からして気付かなかったようだ。考え事でもしてたのかな。ディエゴの方に近付いてみると…ふと、目の前に違和感を感じた。まだ寝ぼけているのかと目をこする。しかし何も変わらない。


「なんかディエゴ……でっかくなった?」


昨日、寝る前より一回りかそれ以上大きくなった。恐竜はそんなに早く成長するものなのか?ディエゴの前に膝をついて、昨日までの記憶と比べてみる。…やっぱり大きくなった。猫サイズに変わりはないが、一般猫からボス猫くらいに変わった。ディエゴもそわそわと落ち着かない。原因が分かっていないのか?


「ディエゴ……」


チラチラと私の方を見ては逸らすを繰り返している。…なんだろう?よく分からない。ディエゴを見ていると、自分の腹からくぅ、と音がした。


「…取り敢えず、ご飯食べようか」




パンにベーコン、レタス、トマトを挟んだだけという至って簡単な朝食を用意した。ちゃんとディエゴの分はベーコン多めにしてある。手早く作れて美味しいって最高だよね。洗い物も少なくすむ。牛乳をコップに注いでリビングへと持っていく。

ディエゴは私が皿を置くと、すぐさま食べ始めた。私も食べようか。一口齧ると……美味しい。


「そうだ、言い忘れてたことがあるんだけど……」


口の中のものをゴクリと飲み込む。ディエゴは目だけこちらを見て、食べながら私が話し始めるのを待っている。


「私は絶対に、何があってもディエゴを追い出したりはしないからね。気が済むまで、いてくれて構わないから…むしろ、いてほしいな」


なんだか愛の告白をしている気分になってきた。というか、捉え方によってはそうも聞こえるのでは…なんてこった!すごく恥ずかしい!でも言ってしまったものはどうあがいても消せない。ディエゴは感情が読めない瞳で私を見つめる。


「…えーっと、その」
「……」


スルーしてパンを食べ始めた!拒否するでも、承諾するでもなくスルーとは。聞かなかったことにしてるのかな。ちょっと辛い。固まっていても仕方がないのでまたパンを食べ始める。心なしかしょっぱい気がする。

私がのろのろと食べていたらディエゴはあっという間に食べ終わってしまっていた。何故か私の方を見ている。10秒ほど見つめ合った後…私の膝に乗ってきた。なんでかな、すごく嬉しい!


「ディエゴ〜!!」


残り一口を食べきって、空いた両手でディエゴをぎゅうっと抱きしめる。抵抗という抵抗はしてこなかった。顔が近くなると、ディエゴは私の口を舐め…て……?


「わ、」


私が動揺していると、誤魔化すように、私の頬に鼻先をぐりぐり押し付けてきた。……今までこんなにスキンシップされたことがない…感動したッ!嬉しくてディエゴを抱きしめたままソファに倒れ込んだ。


「ディエゴ、さっきの話…ここにいてくれるって思っていい?」


返事の代わり、と言わんばかりに、私の鼻にディエゴのそれをツンとくっつけてきた。幸せで胸がいっぱいだ。






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