二人と謎解き編 #2 「ええと…このディエゴも、もしかしたら前世の記憶を持っている……かもしれない、ってこと?それも、本物の"ディエゴ"の?」 「そうだ」 「…そうなの?」 「……」 ディエゴに聞いてみると、尻尾をぱたぱたさせた。無言ってことは肯定か。なるほど、前世で出会っているから、二人を見てあんなに警戒していたのか。 ジョニィが言う『前世の記憶』は、詳しくは聞かせてくれなかったが、ジャイロも同じように持っているらしい。前世で二人は出会っているという。ディエゴ(人間)も、多少違うが持っているらしい。一人だけじゃあない、ってところが摩訶不思議。同時に複数人が同じ記憶を持っているなんて運命みたいだ。なんでこんなに持ってる人がいるのに私にはないのか。ちょっとだけ疎外感を感じる。 ディエゴ(人間)と、ディエゴ(恐竜)は、何か…私でも分かる共通点があったが(それでディエゴって名前にした)、同一人物なのか。しかし人間の方は、恐竜のことで心当たりは無いと言っていた。"恐竜"がディエゴの前世の記憶と関係があるとしたら、やっぱり別人なのか…? 「このディエゴと人間の方のディエゴは、何か関係があったりする?」 「うん。紗織は、隣の世界って分かる?」 「隣の世界?…うーん…」 「パラレルワールドみたいなもんだ。そっくりだがほんの少し違う」 「へぇーっ」 「だから、こいつともうひとりは全くではないけど、同じ人物なんだよ」 「なんでディエゴだけ二人いるの?」 「さぁ?僕にもよく分からない。こんな奴一人で十分なんだけどな」 「……そ、そう」 ジョニィは相当ディエゴが嫌いなようだ。説明からするに、このディエゴは前世で恐竜に関する何かがあって、人間のディエゴには無かった……ってことかな?ほんの少しの違いってレベルじゃあない気がするが言わないでおこう。 「でも、非現実すぎてにわかには信じられないなァ」 「…そうだよね」 「でもよ、証拠なら他にもあるぜ」 「ジャイロ?君、まさか」 「別にいいだろ。どうせ隠す意味なんて…」 言いながら、ジャイロは腰の鉄球に手をかけ、留め金をパチンと外した。 いつも『重そうだなァ〜何かのトレーニング?』と思いながら見ていたが、その謎が今解き明かされるらしい。ちょっとワクワクしている。 「よく見てろよ」 「見てる!」 「……」 じいっと見つめていると、ジャイロがちょいと指で触れただけなのに鉄球がシルシルと回転し始めた!何かのトリックか、それとも…私が持っているような、能力かも?次第に回転は強くなっていき、ギュルルルという音を立て始めた。触ったら指が弾け飛びそうだ。 「これは俺が前世で習得した"回転の技術"だ」 「へぇ、すごい!」 「ちょっと腕出してみろ」 「え」 一瞬固まって、そ〜っと右腕を出してみると、鉄球が私の肌の上を撫でるように滑っていった。でも上に乗っかっているという感触がない。こんなに皮膚がねじれているのに!どういう原理なんだろう? 「これで肌を硬化させたり、…ほら、こんなこともできる」 「わぁ!あははっ面白い!」 「……」 腕の毛がどんどん抜けていく。一瞬でできるなんて、私の今まではどうなっちゃうんだ!これ、便利でいいなァ。私にはできそうもないけど、使ってみたい。ジャイロが手を離しても回転は続いているから、きっと私には想像もつかないような、ものすごい技術の塊なんだろうな。 「……もうその辺でいいだろ」 「ン?あぁ、そうだな」 ジョニィがつまらなそうな顔をしてジャイロに止めさせた。鉄球は自動でジャイロの方へと飛んでいく。もしかして念力とか…?私が座布団に座りなおすと、いつの間にか退避していたディエゴが膝の上に乗ってきた。後でここら辺掃除しないとな。 「信じる気になったか?」 「え?…あぁ、うん。(最初から信じてたけど)」 「…紗織、僕のも見てよ」 「えっジョニィもできるの?」 「うん。僕は鉄球じゃあないけど」 ジョニィが私を指差してきたので、何だろう?と思ったら、なんと爪が回転し始めた!まさに予想外! 「僕のは爪弾っていって、飛ばしたりできるんだ」 「え、飛ぶの?これ?」 「うん。的があったら打てるんだけど…室内だから無理かな」 弾っていうくらいだから当たったら痛いんだろうなァ。考えただけでも痛い。 「…なんでディエゴは隠れてるの?」 「怖いとか?…ブフッ」 「え、そうなの?」 私の背後に隠れていたディエゴは"怖い"という単語を聞いてか怒ったように出てきた。まるで『怖いんじゃあない!』とでも言っているかのようだ。 「爪弾に当たったらただじゃあ済まなそうだからね」 「あぁ、ただじゃあ済まないな…」 ジャイロが過去を思い返すように遠くを見つめながら意味深な発言をする。経験者なのか。少しぬるくなったコーヒーをすすりながら、横のディエゴを眺める。ジョニィと今にも喧嘩し始めそうだ。……犬猿の仲ってやつ?暫く二人で睨み合ったあと、ジョニィが私のところにすごい顔で迫ってきた。 「ねぇ紗織……まだこいつを手放す気にならないの?」 「へ?」 「こんな奴と一緒にいるべきじゃあないんだ。君も利用されるかもしれない。それにディエゴはもう既に一人いるだろ。二人もいらない」 突然一方的にまくし立てられ。何をいきなり、と思ったが、ジョニィの瞳は至って本気だった。心の底からディエゴを嫌っているのだ。それが分かってしまって、余計辛い。 「君が処分できないなら、僕が代わりにするから」 「はは、ジョニィも面白い冗談言うね」 「冗談じゃあないんだけどな…」 処分。処分と言った。まるでディエゴが物であるかのように。ジョニィの瞳が、一瞬、黒い炎を纏って見えた。 「ジョニィ、…私はもう、ディエゴのことを家族みたいに思ってるんだ」 「……は?」 「利用されたって構わない。一緒に居られるなら、それで十分なんだ」 「なんだよそれッ」 「だから…私はこれから先もディエゴと一緒に暮らす」 「………それは、本気で言っているのか?」 「うん」 「……」 「………」 「…………」 「……はぁ…僕は忠告した、もう何があっても知らないからな」 「分かってる」 説得を諦められたようだ。ディエゴを殺処分なんて、私にできるわけがない。そういえば、何か忘れているような。気のせい……?あっ。 「そういえば、ディエゴって人の時の記憶もあるんだよね?」 「クア〜」 「ていうことは……つまり……あーなんか恥ずかしい」 恐竜だからって一緒にお風呂入ったりしてたけど、元は人間…なんか、もやもやする。いやいや、前世が人間だったとしても今は恐竜なんだし、気にすることはない…?あぁ、"普通"が当て嵌らないこの状況で、どう考えるのが正しいのか。もう面倒だから考えるのをやめよう。以前はどうあれ今は恐竜なんだ。それが全て! 「何の話?」 「あ……いや、ちょっとね」 一緒にお風呂入ってたの思い出して恥ずかしくなってたなんて言えない。何かに感づいたジョニィがディエゴに指先を向ける!……ふと、ジョニィの隣に何かがいることに気付いた。 「ジョニィの近くになんか変なのいる!」 「あれが見えるのか?」 「え?…うん。ジャイロも見えるでしょ?」 「お、おう…」 歯切れが悪い返答。見えたらおかしいとか?私おかしいのかな。ジョニィの近くにいる小さいの、よく見たらかわいい。つぶらな瞳が特に。 「紗織、まさかスタンド使いなんじゃ…」 「クァ」 「なんでディエゴが返事?」 「マジか…お前、スタンドって聞いたことは?」 「スタ…ンド?えーと…電気スタンドとか、ガソリンスタンドとか……?」 「ちょっと違う」 「えー…じゃあ立つ方のスタンド?」 「さっきよりかなり近い」 「…さっぱり分からん!」 「自分の近くに半透明の…幽霊、みたいなのが出てきたことは?」 「んー?幽霊?幽霊…あぁ、腕だけなら」 「それは自在に操れるか?」 「うん」 「その幽霊を、俺らは『スタンド』と呼ぶんだ」 「へぇ〜!」 「…お前さんもスタンド使いだったのか」 二人は私を見つめる。こういう能力を持ってるの、私だけじゃあなかったんだ。ということは、ジョニィも同じ…スタンド使い?なのか。ちょっと親近感が湧いてきたぞ。 |