二人の(非)日常編 #5



「よし……送信ッ」


さっきまでいたスーパーに、自転車を取りに向かいながらジョニィにメールする。袋は重いから置いて行きたいのだけど、盗まれるのも嫌だから仕方なく持ってきた。無駄にずっしりしているので、手に跡が付きそうだ。
……さて、あとは返信を待つだけ。

もしジョニィがディエゴ(恐竜)のこと知っていたら。"恐竜"を嫌っているらしいが……どうなんだ。過去に恐竜のことで、悪い思い出でもあるのかな?私が飼ってるのを知って「殺処分しなよ」とか言われないといいが。たまに毒舌になるんだ、ジョニィは。よく一緒にいるジャイロはそうでもないのだが。彼はなんというか、人懐っこい感じ?

自転車までたどり着いたが、まだジョニィから返事が来ていない。暇してたらすぐに返事くれるだろうし、取り込み中なのかな。家に帰るまでに返信来てるといいなァ。カゴに重い袋を入れ、自転車に跨る。


家まであと半分、というところで着信音が耳に入った。あれ、いつも聞くのと違う。……電話か?自転車を止めて電話に出ると、焦燥しているようなジョニィの声。


「紗織、メールの件なんだけど、あれ何だよ?どういうこと」
「どうしたの、そんなに焦って」
「どうしたもこうしたも……」
「あ、恐竜について心当たりとかあった?」
「心当たりなんてレベルじゃ……あーもう、めんどくさいな!今から君の家に行くから!」
「えっ今家に帰ってる途中な、」
「じゃあ急いで帰って!」


プツン。喋ってる途中なのに切られた。なんだったんだ。嵐が過ぎ去ったかのよう。早く帰らないと、色々まずい気がする!ジョニィは車椅子だから、多分車でジャイロか誰かに送られて来るだろうし。私が帰る前にディエゴ(恐竜)と会って面倒になると嫌だから、さっさと帰らないと!

自転車を漕ぐ足を速める。いまいちスピードが出ない。こうなったら立ち漕ぎだ!……ちょっと速くなった気がする。足がプルプルしてきたぞ、これは明日筋肉痛になりそうな雰囲気。だがそんなこと気にしている暇はない!



大急ぎで家に滑り込むと、まだジョニィは来ていないようだった。セーフ!安心してキッチンに食料の入った袋を持っていくと、そういえば、と気がついた。ディエゴには隠れてもらっていた方がいいかな?二人を会わせてはいけないような…そんな気がする。ほぼ勘。

ディエゴは私が帰ってきたことに気がついたのか階段を駆け下りてきた。懐かれたのかなと思うと、ときめきが止まらない。すごくかわいい……んだけど、今は……。


「ディエゴ、今から友達来るから……ちょっと隠れてて?2階には多分行けないだろうから、そのどこかに」
「クァ」


素直に頷く。いい子だ。なでなですると気持ちよさそうに目を閉じる。こんなにかわいいのに嫌いだなんて、ジョニィはかなりもったいない。


「あ、来たみたい。そら、2階に行って」


車の音が聞こえたので、ぽいっとディエゴを廊下に投げると、華麗に着地して階段を駆けていった。相変わらずの運動神経だ。ピンポーンとチャイムが鳴ったのでドアを開くと、ジョニィの姿が。その後ろにはジャイロ。ほんと仲いいね。


「ようこそ我が家へ……」
「お邪魔するよ」
「420(シトゥレイ)〜」


ジャイロが手を使ったギャグ言っている。ちょっと笑った。何故か嬉しそうな顔で、髪をぐちゃぐちゃにされた。それを直しつつ二人をリビングに案内する。食料の入った袋をそのままにしておけないので先に片付けよう。いつもより3パックほど多く買ったお肉をチルドに詰め込む。……ジョニィにガン見されている気がするけど、知らないふり。

片付けが終わってコーヒーを持っていくと、二人はいつの間にかテレビを見ていた。ちゃっかりしてる。コーヒーは私の分だけミルクと砂糖をたっぷり入れてある。


「紗織、恐竜の話だけど……」
「ジョニィ、何か心当たりがあるんでしょう?教えてほしい」
「…先に、君がどうして聞こうと思ったのか話してくれないか」
「うん、えっと…、どこから話せばいいの?」
「……最初から最後まで全部」
「分かった。ジャイロはそのこと知ってる?」
「あぁ、もちろん」
「そう…じゃあ、最初。出会ったところから…」


自分の秘密を暴露しているような気分。…気分というか、本当にしているのだけど。家の前で恐竜を見つけたところから一緒に暮らしている現在まで、全て包み隠さずに話した。一緒に過ごしていて分かったこと(人並みに頭が良いとか)も。全て話し終わると、少し居心地が悪い雰囲気になっていた。二人は顔を見合わせて何か考えている様子。悪い予感しかしない。


「紗織……一緒に暮らしてる、ってことは、今この家にいるんだね」
「…うん」
「会いたいんだけど、連れてきてくれないかな」
「まだ確信が持てないからな」


やっぱりねーッ!そう言うと思った。あぁ、もういいや。話してしまったんだ、隠す必要もなくなった。なるようになれ!





back