二人の(非)日常編 #4



昨日の夕食はカップラーメンだった。……複製はできても賞味期限が変わらないのが私の能力のつらいところ。食料が切れてしまったのでスーパーに買い出しに来ている。
どれを買うか悩んで買うものメモを見るも、『食材』としか書いていないので、適当に選んで買うことにする。買い置きは1週間分だけ。

(ディエゴは肉好きだからなァ〜多めに買っておくか)

カートを押しながらお肉コーナーに足を向けると、見知った背中が目に入った。しかし人違いかもしれないので顔を見るまで話しかけられない。……あ、顔見えた。


「ディエゴ?」
「ん?……あぁ、紗織か。お前も買い出しか?」
「そうだよ、食料が底を尽きちゃって」
「そうなる前に買えばいいだろ……」
「あー、まぁそうなんだけど……できる限り家から出たくないし」
「このひきこもりが」
「言い返せないからやめて」


軽口を叩き合いながら品定めをする。うーん。こっちのお肉よりあっちのが脂身少なめかな……取り敢えず良さそうなお肉はカゴに突っ込む。案の定ディエゴにツッコまれた。


「お前なんでそんな肉ばっかりカゴに入れてるんだ?太るぞ」
「えっ……いやこれは……その……」


そうだ、ディエゴ(人間)にディエゴ(恐竜)のこと聞こうと思ってたんだ。
……ここで聞くのもあれだよなァ。


「……ディエゴ、この後時間ある?」
「んー……そうだな、あと2時間くらいなら」
「じゃあこの後どっか寄らない?聞きたいことがあるんだ」
「あぁ、いいぜ。会計終わったら外で待ってる」
「了解ー」


うまく約束を取り付けたぞ!さっさと買い物終わらせちゃおう。15分程度店内を練り歩き、漸く会計が終わった、というところで丁度ディエゴを発見。ガラス越しだけどすごい暇そうなのは分かった。


「ディエゴお待たせ〜」
「……やっと来たか」


ディエゴはいじっていたスマホをポケットにしまってこちらに向き直る。手には私のよりずっと軽そうな買い物袋。私に言うだけあって、こまめに買い物しているようだ。一方私はひとつだけどパンパンになったエコバッグ。


「どこ寄る?」
「座って話しができればどこでも……そこらのベンチでもいいし」
「……オレはいいけど、お前は大荷物だしな。そこの公園に行こう」


ディエゴに先導されてすぐ近くの公園へ。さりげなく荷物持ってくれるところに優しさを感じる。設置されているベンチに座り、荷物は脇に。イケメンって、ただ座ってるだけでも絵になるから腹立たしい。ギャグ言ってる時の顔はすごく殴りたくなるが。


「……で?聞きたいこと、だっけ?」
「あぁ、うん……どこから……なんて言えばいいのか」


恐竜が捨てられていたこと?今一緒に住んでいる。体中に『Dio』という文字のような模様があって、ディエゴの話をすると過剰なくらい反応する。でもあんまり正直に言っても普通は信じられないよなァ…あぁ、どうしよう。……考えていてもしょうがない。取り敢えず何か聞こう。


「えっと……あー、その、ディエゴ。恐竜って、知ってる?」
「は?……あぁ、知ってるが。それが?博物館にでも行きたいのか?」
「そうじゃなくて……いや、行きたいっちゃ行きたいんだけど」
「じゃあ何だ」
「……なんか、心当たりとか、ない?恐竜のこと……会ったことある、とか」
「?……いや、得に……ないな」
「そうか……」


ディエゴが嘘を吐いているようには見えない。それに嘘を吐く理由がない。やはり見当違いだったのだろうか。だとすると、恐竜のディエゴが反応するのは、このディエゴじゃあないのか?でも他に『ディエゴ』って名前の知り合いはいない。何故か外国人の知り合いは多いが。


「聞きたいことってのはこれだけか?」
「へ?……あぁ、うん。これだけ……なんかごめん」
「別にいい。にしても、恐竜なァ……そういえば、ジョニィの奴が恐竜って単語聞くだけでイライラしだすとか、ジャイロが言ってたな」
「へぇ〜そうなんだ……じゃあメールでジョニィにも聞いてみようかな」
「聞いたらあいつキレそうだけど」
「あ〜、変なとこ怒りっぽいもんね」
「なぁ?」
「うん」


暫く世間話した後、ディエゴは用事があるそうで、先に帰ってしまった。……あっ、自転車スーパーに置いたままだった。さっき荷物持ってもらったの、無駄になっちゃった。まぁいいか。




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