二人の(非)日常編 #3



空一面が薄い雲で覆われて、遠くで隙間から降り注ぐ日差しが、なんとも言えない神々しさを感じさせる。


朝っぱらから私室でゲームをし始める私。今日は一日暇だしいいんだよッ!…毎日暇だけど。ディエゴは初めて見るゲームにそわそわしている。もちろんプレイするのは私。小さい手ではコントローラーを握ることすらできない。……大きかったらできるのか?

しばらく待つとスタート画面になったので適当なボタンを押す。一番上のセーブデータを選択。数秒待つと、中央に緑の剣士が現れた。ここでディエゴが画面の目の前に移動。馬を呼ぶ笛を吹く。一瞬で馬が現れる。ぱっかぱっかと蹄の音を鳴らして駆け寄ってくる。ディエゴのテンションがうなぎ登り。無意識だと思うが、尻尾をぱたぱたさせている。馬好きなのか。


「馬が走ってるのってかっこいいよねェ」


画面に集中しているのか反応がない。まあいいか。

馬に乗って広い平原を駆ける。横から見るとより一層かっこいい。並走してくる敵を矢で打ち抜きながらカメラを横に移動させる。魅せプレイ……多分できていない。
敵が乗っていたイノシシのようなものを崖下に落として遊ぶ。敵同様かなり凶悪な顔をしているので罪悪感はあまりない。そして地味に楽しい。ディエゴはもっと馬が見たいらしいが、このゲームは他に出てこな……あっラスボス戦でいたな……でも面倒なのでパス。


何をするでもなくフィールド上を適当に動き回って遊んでいたら、いつの間にやら12時を過ぎていた。ディエゴはゲームを見るのが初めてだからか、あまり飽きていないようだが。……お昼もパンでいいか。この手抜き具合である。あ、明日買い物に行くから!一応材料はそこそこある。パスタくらいなら作れるが、ディエゴ食べにくそうだと思って……言い訳にしかならないのでやめよう。

ディエゴと一緒に1階に降りる。まだパンが残っていたはず。キッチンに置いている、いつもパンを入れているカゴを見てみると……あれ。


「メロンパン、1コしかない」


2コあるかと思ってたのに!私かディエゴのどちらかはパンでいいとしても、もう片方に結局作らなければならないし……ご飯は残ってない。今から炊くと……うーん、めんどくさい。あぁ、そうだ。


「2コに増やしちゃおう」
「?」


……ディエゴは恐竜だから誰かに話したりできないし、大丈夫だよね。何言ってるんだこいつ、と訝しげに私を見るディエゴは放っておく。

私の右腕に重なるように、半透明の"もうひとつの腕"が現れた。


「おりゃっ!」


透明の影がメロンパンを叩くと、ぐにゃりと曲がり2つに分裂し始めた!細胞分裂のように、むにょ〜っと分かれて、最後にプツッと離れて終わり。手の上には2つのメロンパン。何事もなかったように片方のメロンパンをディエゴに手渡す。


「ディエゴ、はい」
「……」
「え?」


すごい目で見られている。恐竜でも驚くものなのか、この能力。


「説明とかいる?」
「クア」
「じゃあ食べながらにしよう」


冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぐ。パックの方はしまってからリビングに移動。ディエゴはメロンパンの袋を咥えて運んでいる。かわいい。
ソファに腰を下ろし、テーブルに牛乳を置いて話し始める。


「私、ものをコピーする能力を持ってるの」
「……」
「さっきこのパンでやったでしょ。ああいうのが……例えば、車とか、木とか、人とか。色々なものに使える」


メロンパンを片手に食べながら、自分の手から肘までをコピーしてみせる。だらりとぶら下がった腕を引き剥がし、ディエゴの目の前に持っていくと、嫌そうな顔をされた。……微妙に傷つくな、それ。


「こうやって一部分だけコピーすることもできるの。これいらないな〜って思ったら叩けば一瞬で消えるよ」


だらしなく指をぶらつかせている腕を半透明の腕で殴ると、一瞬の内に消えてなくなった。ディエゴは目を瞬かせている。


「面白いでしょ、これ。超能力かなって思うんだけど、私霊感とかないし……どうなんだろうね」
「……クァア」


ディエゴは上手く袋を開けられなかったのか私に差し出してきた。最初からそうしておけばよかったのに。……やっぱ、私の気配り下手ってことで。


「この能力、発現したばっかりの頃はいろんなものが増えまくって、ホント大変だったんだよ。外に出ると間違って自転車とか増やしちゃうし、家にいるだけでもゲーム機やら家具やらがどんどん増えてくんだもん」


家が物で溢れかえった時はさすがに能力を恨みそうになった。家族も随分困っていた。こんなにいらない!と思いながら叩いたら無くなったのが、コピーしたものは消せる、と気付いたきっかけだ。


「今じゃ制御なんてできて当たり前って感じだけどね」


悪戯心で自分をもうひとり増やしてみると、ディエゴはメロンパンを食べながらも、かなり驚いたようだった。影分身みたいだもんね。
もちろんこれも叩くと消える。一瞬で消えた自分に儚さを感じてしまう。まあ何度もやってる事だが。


「この能力のおかげでお金に困ってないってワケ。……大体分かった?」
「ギァ」


まあ私の能力はコピー、ってことだけでも分かってればいいんだけど。











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読まなくても大丈夫です。




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