二人の(非)日常編 #1



ディエゴを拾って数日経って、暖かな日差しが部屋に降り注ぐ午前中。私はキッチンでいそいそとサンドイッチを作り、バスケットに詰めていた。ディエゴはリビング側の出窓で日向ぼっこしている。

実は昨日、普通の買い物に行くついでにディエゴには秘密でペット用のキャリーを買っていたのだ。もちろん、外からは中が見えないようになっている。何をしようとしているかは言わずもがな。

さて、サンドイッチは詰め終わった。飲み物も準備できた。完璧だ。
ディエゴに気づかれないように、玄関前にキャリーを設置する。
あとは本人を呼べば準備完了!


「ディエゴー、ちょっときて〜」


呼びかけから数拍おいて、ペタペタと足音が聞こえてきた。リビングからひょっこりと顔を覗かせている。手招きすると『何だ?』と言う目を見せながらこちらに歩いてきた。ふっふっふ。見て驚くがいい!


「見て、ペット用のキャリーだよ!昨日こっそり買ってきたんだ〜これでいつでもお出かけできるようになるよ!……あれ?あんまり驚いてない」


反応に困ったような沈黙。え、嘘だろ。秘密にしてた意味が……。


「……もしかして、買ってるの知ってた?」
「クァ」
「あっ……ですよねェー!」


とっくのとうに知ってたと!なるほど驚かない訳だ。これも恐竜の感覚か。直感か何かかもしれない。もしかしたら倉庫に隠してるの見られてたとか…私がマヌケだっただけじゃあないか!まあ今はそんなのどうでもいい。


「ピクニックに行こう!」



・・・



今、私たちはッ!家から少し離れたところにある丘の上の広場に来ている。なかなか見晴らしが良く、遠く、地平線の手前ぐらいに海が見える。綺麗な景色だ。その上人も滅多に来ない。ディエゴとこっそり出かけるにはぴったりの場所である。

出かけよう!となった時、ディエゴは"ペット用"のキャリーが気に入らないのか、入るのを渋っていた。最後には頼み込む形で連れてきた。外の景色を楽しんでいるようで、結果オーライ。

木陰のベンチに座って休憩する。自転車だが、荷物とディエゴを乗せて漕ぐのは運動不足の私にはちょっとキツかった。特にディエゴが6キロほどあるので余計だ。当の本人は私など気にも留めず走り回っている。

さっきから観察していると妙な動きだ。走り出したかと思えばどこかに消えたり、真逆の方向から現れたり……。目測だが、助走をつけてのジャンプは4mを超えるほどある。あの小ささで!身体能力が比べ物にならない。家で走り回れないからパワーが有り余っていたのだろうか。


私は私で鳥を眺めたりディエゴを眺めたりしていたらいつの間にかお昼になっていた。ディエゴは鳥を咥えて……えっ。


「ディエゴ、サンドイッチ食べよう」
「クァ」


呼びかけたら鳥をペッと吐き出した。ヨダレでベトベトの鳥はまだ生きているようで、放されたことに一瞬気がつかなかったのか、ジタバタと動いた後に我に返って飛び去っていった。

籠からサンドイッチを取り出すと、ディエゴが鼻をクンクンとさせている。可愛いなァ!


「ディエゴのはこれね、肉いっぱい入ってるやつ」


贅沢にもローストビーフを使用している。ディエゴは一瞬で分かったのか、私の手から飛びかかるように奪い取って食べ始めた。そんなにお腹が空いていたのか。…口の周りに食べカスが付いていたので取ってあげた。食べたりしないよ、ディエゴさっき鳥咥えてたし。バッチイ。


「どう、美味しい?」
「クアァ」
「そう?ふふ、作りがいがあったね」


まあパンに挟んだだけなんだがねッ!もくもくと熱心に食べているのを見ているだけで幸せになってくる。多分私の中で既にフィルターが出来上がっているんだろうな。ディエゴだけかわいく見えるような。


「飲み物飲む?」
「クァ」
「んーとねー……紅茶とコーヒーあるけど、どっちがいい?」
ぺちっ。
「コーヒーね」


こぽこぽ、と水筒の蓋に注ぐ。飲めるかな?……それ以前に、飲んで大丈夫なのか……?まあいいか。害はなさそうだし。


「……コーヒーといえば、あなたの名前を貰ったディエゴっていう知り合いが、イギリス人なのにコーヒーの方が好きなんだよねェ」
「……」
「私、その人と会うまで、イギリス人はみんな紅茶が一番なんだと思ってたよ」
「……クァ」
「そのディエゴって人、騎手やってるんだけど、前まで大会……だっけ?でアメリカにいた、って言ってたの。そんなすごい人がなんで日本の大学に通ってるんだろうね?」
「……」
「?……どうかした?」
「……グァア」
「そう、ならいいんだけど」


一瞬ディエゴの雰囲気がこわばった気がしたんだけど、気のせいだったかな。
人間の方のディエゴの話すると何故かいつもそわそわするんだよね。なんでだろう。知り合いだったりするのかな?今度会ったら聞いてみようか。




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