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切島

ゆら、ゆらと紫煙が登る。
紫色をしているわけではないのに紫の煙と書くのはどうしてなんだろうと、足りない頭で考えたことが一度あった。今で二度目。
唇をすぼめて口内にとどめていた煙を吐く。やっぱり紫じゃない。

「なまえ、煙草やめろって言っただろ」
「あ」と言う間もなく。人差し指と中指で挟んでいた煙草が抜き取られた。何するんだ、と文句を言おうと顔をあげれば、硬化した手によって煙草が目の前でぐしゃりと握られた。へたる黒髪が揺れる。
「ねえ、まだ火ぃついてたんだけど」
「熱くねーよ」
「あーあ、もったいない」
もったいなくねえよ、と鋭児郎。

私は煙の個性を有している。肌が乾いてさえいれば自分の体を煙に変化させられる。けれど縦幅も横幅も足りないおかげで満足に個性を使えない。煙になれる体の面積が狭すぎるんだ。だからと言ってはなんだが、煙草で足りない煙を補充していた。
それを鋭児郎に見られれば咎められるのはわかっていたから、知られないように自分の家のベランダなんかで吸っているのに、鋭児郎はわざわざ私の家に来る。
個性のおかげでヤニ中の心配なんかないんだ、と説明してもだめだだめだの一点張りだ。
あいつばかだ、って私が思っているのを、きっと鋭児郎は知らないんだろうと思う。

「お前な、まだ未成年なんだから煙草はだめだろ」
「だけどさ鋭児郎、私どれだけ食べても太らないから、さあ」
ん、と差し出された上を向いたてのひらに、黙って煙草の箱を乗せる。とは言っても中は入っていない。中が空であることを知っていて、鋭児郎も手を差し出す。
「俺はお前が個性を使わなくて済めばいいって思う」
「でも私ヒーローになりたい。モクモクヒーロー、スモーカー!かっこいいよ、絶対」
「やめろよ、どこの海軍だよ」
からから笑うと、もう一度念を押すようにやめろよと鋭児郎が言った。


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