ss | ナノ

切島鋭児郎

タイトル「この体は死にたいで構成されている」


酒を飲んだわけじゃない。未成年の飲酒なんて御法度だから。
クスリをキメたわけでもない。私はそんなものには手を出さない。

雲の上を歩いているようなふわふわした踏み心地。でもそれは私がおかしいだけであって他の人はきっと、硬い地面を踏みしめているのだろう。

脳が思考を拒絶するかのようにぼんやりとする。でも目の前のこの男はしっかりと正常に思考できているようだ。

気分が昂揚する。顔に熱がたまって頬が熱い。腹ん中で何かが暴れてるようで、気持ち悪い。

酒を飲んだわけじゃない。これは個性のせい。


「なあ、なんで自分に個性使うんだよ」

燃えるような赤髪が風呂上がりのおかげでぺたんとしてる。それでも右目の傷は変わらずそこに健在しており、彼は変わらず彼なのだと示している。

「はやく死にたいから」
「なんで」

はやく死にたい。はやく死んで楽になりたい。この世界はあまりに狭く息苦しい。人が多すぎるせい。自分の個性を自分に使ってアルコール中毒でさっさと死んで来世は人の少ないところに生きたい。はやく死にたい。この世界はあまりに残酷すぎる。はやく死にたい。死にたい。死にたい。
その気持ちばかりが先行して。誰にも言わずひとりでこっそり、でもないけれど。個性を使っていると悟られぬように飲み物にアルコールを混ぜて摂取して、ふわふわする脳みそを頭蓋に納めたまんま、授業を受けて、ご飯を食べて、寝て起きて。

「生きてたっていいことないもん。だから来世はもっといい個性に生まれて千年に一人の美少女に生まれて、両手に華を携えて生きるんだ。彼氏もとっかえひっかえするんだ」
「それじゃ、お前が死ぬのに合わせて俺も死ななきゃなんねぇだろ、やめろよ」
「なんで」

*
はやく死にたい。来世に期待したい。
幼馴染の口癖。

家庭に問題があるわけじゃない。彼女自身にも問題はない。学校でいじめらしいいじめもない。成績も悪くない。運動もできないわけじゃない。友達もいないわけじゃない。アレルギーや病気もない。トラウマも特にない。
なら、なんで。

*
特に理由があるわけじゃない。ただなんとなく。ただ漠然と。ふわふわ実態のない雲みたいな、漠然とした小さな「死にたい」が集まって雲のような形を成して、死にたくなる気持ちにさせる雨を降らせる。
たとえばアラームをセットし忘れて寝坊したので死にたい。たとえば体育で顔面でボールを受け止めて恥をかいたので死にたい。たとえば友人とうまくいかないから死にたい。そんな漠然とした死にたいが頭上からふわふわぱらりと降ってきて積もりに積もって、とうとう私の足は、膝下まで「死にたい」に埋もれてしまった。



放置したらなにを書きたいのか分からなくなってしまったので供養


← →

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -