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中学生轟

黒と黄色の遮断器が電車の来訪を知らせる音と共に降りてくる。遮断器の根本には綺麗にラッピングされた花束がひとつ。この場所に来るたび花は変わっていた。まるでここで死んだ人間の魂を慰めるかのように花は毎日変わる。誰が花を置いているのかは知らないし、ここで死んだ人間がその花を見てなにを思うのかも俺は知らない。ただ、そう。遮断器のすぐ前に立つと、決まってあいつが「もう少し離れなよ」と俺に囁くのだ。




今日はまだ、花が昨日のままだった。いったい誰が花を取り替えているのか不意に気になり、腕時計を確認する。時間までまだ30分はあった。いつもなら10分前には教室に入っている自分だったが、今日くらいは、多少遅れてもいいだろうか。らしくもなくそんなことを思う。音が鳴り止み、遮断器が上がる。向こう側にいた老婆が花束を大事そうに両手で抱えたまま、線路を渡ってこちら側に来た。そうして遮断器の根本に置かれた昨日の花束と、今日のそれを交換する。
「あいつは、色付きより白が好きだった」
中腰のまま老婆が振り向く。少し驚いたように目を見開いて、しわくちゃの顔を更にくしゃくしゃにして笑った。
そうなの。ありがとう。
なにに対する礼なのかはわからない。けれど老婆は至極嬉しそうに何度も俺に頭を下げた。





放課後、決まって俺となまえは二人並んで帰路についた。どちらが言い出したわけでもなければ、親にそうしろと言われたわけでもない。どちらかのクラスが先にホームルームが終わったら、片方が来るまで下駄箱で待っているのが常だった。幼馴染というわけではなく、付き合っているわけでもない。ただ、家は近かった。右足を出して左足を出してという規則的な動きのなか特に会話があるわけでもない。ただ俺の隣になまえがいるのはいつもだったし、なまえが俺以外と帰ることもなかった。学校と家の間にある踏み切りに立ったときだけ、なまえが口を開いた。電車の走行音や風にかき消されて耳に届かなかったならそれでいいし、届いたなら返事をした。

その日だけは違った。いつも爪先を眺めながら歩くなまえが不意に顔をあげ、遮断器を持ち上げて線路内に踏み込んだのだ。くるりと振り返ってにこっと笑い、「ばいばい」と顔の横で手を振る。なにが起こったのかよく理解できずにぽかんとしていると、電車が急ブレーキをかけながらなまえを画面外に押し出した。


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