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幼馴染

私の世界に色はない。うすぼんやりと明るいだけの世界に私は生きている。
私の世界に形あるものはない。私の目はものを映さなくなってしまった。
硬質なものが頬を転がって床に落ちた。普段は怒声しか発さない声帯が静かに震えて私を呼んだ。
「なあに」
「だいじょうぶか」
言い慣れないその言葉を敢えて使う幼馴染は、もう一人の幼馴染よりずっと優しい声をしていた。その優しさを、彼にも分けてあげればいいのにと思う。
記憶に残る幼馴染の顔は、もうおぼろげだ。この先ずっと、もう二度と彼の顔を見ることができないと思うと、考えるたびに胸が締め付けられて、苦しくなって。そのたびに両目から硬質な涙が落ちるのだ。
もうひとつ、ころりと頬をすべる。
「だいじょうぶだよ」
うっすら明るい世界から逃れるように目を細める。目尻を下げて、頬を上げて。うまく笑えているだろうか。
「泣くなよ」
自分の個性に耐えうるべく自然と分厚くなったてのひらが、指が私の目元を撫ぜた。そのことに、えがおをつくるのをやめる。
頬から熱が離れていくのが寂しくて、幼馴染の手を追おうと手を持ち上げると、今度は頬だけではなく、からだが、あたたかいものに包まれた。
左手で、私の顔を自分の胸に押し当てるように、後頭部をしっかりと固定して、右手は私の腰のあたりを抱いている。あまいにおいが鼻をくすぐる。持ち上げた手を、ためらいながら幼馴染の背にまわすと、彼は、一瞬大きな体を震わせた。そして私の手にこたえるように、腕のちからを強くする。

わたしはうまくわらえていますか


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