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探して

梅雨の時期は好きじゃない。湿気で服はしめるし、パンはすぐにカビが生える。制服に泥が跳ねたときなんざ、いつも以上に苛立っちまう。それに何より、この時期は “あいつ” が姿を現す。
やあ、と。透けるような声を捉えて振り返る。関わりたくないというのに、こいつは必ず俺の背後に立つ。俺の前を歩かれるのもうぜぇが、音も無く背後に立たれるのもそれはそれでうぜぇ。
白いワンピースをまとった青白い肌は、透けて向こうが見えている。雨がそいつの体を通り抜けて地面に吸い込まれる。膝を抱えた三角座りの格好で、俺よりいくらか高い位置から俺を見下ろしていた。
「探してよ」
他の奴に頼め、というのはこれまで何度も言った。それこそ数えきれないくらいに。それでも構わず探せ探せとしつこいから、とうとう他を当たれと言うのをやめたのだった。口を閉ざせばこいつが消える、というわけでもなく、むしろしつこさは増した。
「どこに行きゃあいいんだよ」
「探してね」
相変わらず、探してと、それしか言わない。盛大に舌打ちをかましたとき、傍らをレインコートを着たガキが走っていった。ばしゃり、泥水が着崩したズボンにかかる。もうひとつ、舌打ち。またそいつがいた場所に視線を投げたとき、そいつはもういなかった。


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