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轟焦凍

 
「これ、もらうわ。」

 わりぃな、などと言いながらにやりと笑う男は、その腕に顔をよく知った女の肩を抱いていた。女は顔を赤らめ、困ったように眉尻を下げて俺から視線を外している。
 ポケットに突っ込んでいた手を出して、女の頬を掴み、俺の前で口付けを交わす。みょうじがうっとりと目を瞑った。
 男も、女も、双方よく知った人間で、どちらもクラスメイトだった。



 は、と刮目して短く息を吐けば、真っ先に目に飛び込んできたのはいつもの自室の天井であった。
 いつになくすっきりと目覚められたが、いつになく寝覚めが悪い。
 夢は夢だと、休みたいという衝動を抑えて布団から這い出た。


 教室に入ると、クラスメイトが何やら集まって騒いでいた。どうしたんだ、と近くにいた緑谷に尋ねれば、みょうじさんが、と彼は言った。
 どうやら人だかりの中心にいる人物はみょうじらしい。何かあったのだろうか。今日は彼女の誕生日ではないはずだ。彼女の両親もヒーローではない、何か凄い功績があったわけでもないはずだ。転校、などであれば彼らが嬉々としているはずもない。

「みょうじがどうしたんだ。」
「え、あ、かっちゃんと…」

 付き合えたんだって。
 その声を聞いた瞬間、音が消えた。気がした。
 人だかりがこちらを見る。中心の人物が俺を見る。頬を赤らめるみょうじの隣にいるのは、机に座って目を釣り上げるクラスメイト。
 みょうじの唇が俺の名を形作る。
 音が戻ってきた。

「みょうじ、」

 よかったな、おめでとう。その言葉は口から出てこない。みょうじと一緒に、あの男にとられてしまったようだ。


小説のネタをひたすら書いていくだけ。


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