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廉造

 
周りの音が耳に入らなくなるほどに、集中して本を読んでいた。好きな作者が書いた本だから、時間の経過など気にせずにいつまでも読みすすめられた。ページをめくって文字列を目で追えば、そこに記されている光景がありありと思い浮かべることができる。
突然、後頭部に手が触れた。人の動く気配など感じ取る能力を持ち合わせていないものだから、ひどく驚いてそのほうを見た。ピンクに髪を染めたクラスメイトが、顔の右半分を腕にうずめてこちらを見ていた。日本人特有の焦げ茶の目と視線が合う。暗い色に驚いた顔の私が映る。
ぐっ、と彼が体を起こしてこちらに顔を近づけた。その行動にすら驚いて身を引こうとすると、後頭部に触れたままの手に力がこもり、ぐいと自身のほうに引き寄せる。動かされた拍子に、ページに挟めていた指が外れ、本が床に落ちた。
キスを、されるかと思った。けれど彼は私の肩に鼻をうずめるように私を抱きしめるばかりだった。


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