廉造
机に無造作に置かれた、男の人特有の、骨ばった手を不意に見る。自分とは違う無骨な手。
彼は女性の柔らかな手が好きだと言うが、私は彼の骨ばった男性らしい手が好きだ。
触れてみたい。
感情に任せて指先に触れる。
彼が顔を上げたのが気配で分かる。頬杖をついたままにちらりとそちらを見れば、垂れた目を丸く開いて私を見ていた。
何か言おうと口を開くがすぐに閉じる、を何度か繰り返す。まるで金魚のようだと思った。
隙間を埋めるように指と指を絡めるように、彼の手を握る。彼は彼で静止の言葉も吐かず、それはまるでどうしたらいいのかと問うているようで。
せっかく絡めた指をほどき、手のひらに4本指を添えて、親指の腹で手の甲に浮き出た骨をなぞる。きゅ、と彼が私の指を軽く握る。その手から逃げるように、指を引き抜く。
食指に触れる。根本、第二関節、第一関節、指先。
彼を見遣る。困り果てたというように眉尻を下げ、シャーペンを握ったまま私を見ていた。
「ここ、図書館やで…」
「人少ないし、そんな、別に」
構うことはない。その言葉は倦怠感から自然と喉の奥に引っ込んだ。
[ back ]