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ベポ

10階建てくらいの建物を見上げると、屋上に人が立っていた。女の人だった。よく見えなかったけれど、ひらひらしていたからそうなんじゃないかなって。それに、おれの鼻が女の人特有の匂いを捉えたから。

「何してるの?」

その子にも聞こえるように大きな声で言った。周りの人が、俺が喋ったことに驚いていたけど気にならなかった。

「死ぬの」

おれの耳が良いだけじゃない気がするけど、距離があるはずなのに、その人の声は不思議と大きくはっきりと聞こえた。細い声だった。
ぐらりとその人が前に倒れた。そこに足場はない。
「あっ、」
倒れた瞬間はすごくゆっくりに見えたのに、落ちた、と思ったらすぐだった。女の人と地面の距離はぐっと近くなって、潰れるような嫌な音。女の人の腕や脚は変な方向に折れて、首は体に埋もれてしまっている。
歩行者の悲鳴が聞こえた。
悲しい、とか、可哀想、とか思わなかったのは、おれが海賊だからか、熊だからか、それともこの人のことを何も知らないからか。


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